追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

第１０６話（リーゼル視点）

　フェルヴァは相変わらずの無表情で、静かに語り続ける。

「私、ショックだったわ。大好きな姉さんに、もう甘えられないんだって思うと、悲しくて寂しくて、涙も出た。でも、姉さんが言った『強い人間は、自分の問題を自分で解決するもの』って言葉、凄く胸に刺さったわ。だから私、強くなって、『自分の問題』を、自分で解決することにしたの」

「そ、そうなの。えっと、それで、問題は解決できたの？」

　俺の問いを受け、フェルヴァはにこりと笑った。
　その笑顔が、不意に歪み、子供の落書きのように不安定な形になる。

　不安定な歪んだ笑顔のまま、フェルヴァは奇怪な声を発した。

「ひぇ、へ、あはぁ、はぁ、はぁ。もう少しよ。もう少しで、解決するわ。へはぁ、ひぁ、ひはっ、もっと早くから、こうしておけばよかった。もっともっと早くから、こうしておけば、嫌な思い、いっぱいしなくて済んだのに。へぇへぇへぇえへぇ、でも、もういいや。もう終わりだから。へぇへぇへぇへぇ、へぇへぇへぇへぇ」

　俺は生唾を飲み込んだ。フェルヴァに対し、もう声をかけることもできなかった。目の前で不気味な声を上げている存在が、血のつながった自分の妹だとは、とても思えなかった。

「へひ、へひ、ひへぇっ、姉さん、ありがとう。ありがとう、姉さん。姉さんのアドバイスのおかげよ。そうよね、自分の問題は、自分で解決しなきゃ。へひっ、へひっ、姉さんのおかげで、私、凄い存在になれたの。これでもう、嫌なやつ、いなくなるの、いやらしいやつ、いなくなるの。へはっ、へは、へはぁっ」

　そしてフェルヴァは、これ以上話すことはないと言うように、ぴょんとベンチから降りて、どこかに行ってしまった。俺の背中は、冷たい汗でべっとりと濡れていた。まるで、おとぎ話の妖怪に遭遇したような気分だった。

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　それから一ヶ月後。
　親父が死んだ。

　滅茶苦茶な死に方だった。

　ちゃんとした形が残っているのは顔だけ。
　あとはすべて、ひき肉よりも細かく分断されていた。

　親父の死体は、どぶの中、汚物にまみれていた。死体の上に、臓物をつなぎ合わせて作ったと思われる文字があり、それはかろうじて、このように読めた。

『ゴミ』

　……誰がどう見ても、猟奇殺人である。