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第94話
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リーゼルはつまらなそうな顔でリリエンヌを見返し、小さくつぶやく。
「いいや、別に」
「嘘です。笑いましたよね」
「まっ、そうかもな。笑ったかもな」
「『かも』じゃありません。あなたは確実に笑ってました。いったい何がそんなにおかしかったんですか? ねえ、教えてくださいよ、ねえ!」
リリエンヌは、これまでの冷静な仮面が壊れてしまったかのように興奮していた。一週間ほど前、私から逃げるために見せた演技とは違い、本当に怒っているようだった。
よく見ると、リリエンヌの周囲で、魔力のオーラが高まりだしている。その高まったオーラは、小さな稲光となって具現化し、バチバチと音を立てていた。
これは危ない。リリエンヌが一言でも呪文を口ずさめば、そのまま戦いが始まりかねないような、一触即発の空気だ。
そこで、これまで黙って二人のやり取りを見ていたブレンダが、仲裁に入る。
「やめろ、リリエンヌ。『魔女のお茶会』で魔法を使った私闘をするのは会則違反だ。もうすぐフェルヴァ様もいらっしゃるだろう。攻撃魔法なんて使っているところを見られたら、お叱りを受けることになるぞ」
だがリリエンヌは、リーゼルに詰め寄るのをやめなかった。
今にも飛びかかりそうな剣幕で、先程と同じ質問を繰り返す。
「ねえ、私の言ったことの、何がそんなにおかしかったんですか!? 教えてくださいよ! あなたはいつもそう! 『至高なる魔女の会』にいた時も、私を見下してましたよね!? 苗字すらない下賤な血筋の娘だって、私のこと、馬鹿にしてたんでしょう!?」
どんどんヒートアップしていくリリエンヌとは対照的に、先程は少しばかりムッとしていたリーゼルの怒りは完全に冷えてしまったようで、小さなため息と共に、リーゼルは憐れみを込めた声を発した。
「別に、おかしくて笑ったわけじゃねーよ。お前を見下して嗤ったわけでもない。……ただ、何も知らないで、哀れだと思ってな」
「何も知らない? 私が? どういう意味です?」
「お前、さっき、フェルヴァにとっての真の家族は自分たちだけだって言ってたよな」
「ええ、言いました。だって、事実ですもの。私たちは、心と心が結ばれた真の家族であり、理想的な共同体なんです」
「フェルヴァの心は、誰とも結ばれちゃいないよ。あいつは、人間が全部嫌いなんだから」
「いいや、別に」
「嘘です。笑いましたよね」
「まっ、そうかもな。笑ったかもな」
「『かも』じゃありません。あなたは確実に笑ってました。いったい何がそんなにおかしかったんですか? ねえ、教えてくださいよ、ねえ!」
リリエンヌは、これまでの冷静な仮面が壊れてしまったかのように興奮していた。一週間ほど前、私から逃げるために見せた演技とは違い、本当に怒っているようだった。
よく見ると、リリエンヌの周囲で、魔力のオーラが高まりだしている。その高まったオーラは、小さな稲光となって具現化し、バチバチと音を立てていた。
これは危ない。リリエンヌが一言でも呪文を口ずさめば、そのまま戦いが始まりかねないような、一触即発の空気だ。
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「やめろ、リリエンヌ。『魔女のお茶会』で魔法を使った私闘をするのは会則違反だ。もうすぐフェルヴァ様もいらっしゃるだろう。攻撃魔法なんて使っているところを見られたら、お叱りを受けることになるぞ」
だがリリエンヌは、リーゼルに詰め寄るのをやめなかった。
今にも飛びかかりそうな剣幕で、先程と同じ質問を繰り返す。
「ねえ、私の言ったことの、何がそんなにおかしかったんですか!? 教えてくださいよ! あなたはいつもそう! 『至高なる魔女の会』にいた時も、私を見下してましたよね!? 苗字すらない下賤な血筋の娘だって、私のこと、馬鹿にしてたんでしょう!?」
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「別に、おかしくて笑ったわけじゃねーよ。お前を見下して嗤ったわけでもない。……ただ、何も知らないで、哀れだと思ってな」
「何も知らない? 私が? どういう意味です?」
「お前、さっき、フェルヴァにとっての真の家族は自分たちだけだって言ってたよな」
「ええ、言いました。だって、事実ですもの。私たちは、心と心が結ばれた真の家族であり、理想的な共同体なんです」
「フェルヴァの心は、誰とも結ばれちゃいないよ。あいつは、人間が全部嫌いなんだから」
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