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第83話

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 私がこの町に来てから、早くも一週間の時が流れた。

 最初こそ夜ふかしの朝寝坊だったが、今は故郷の森に住んでいた時と同じように早寝早起きで、日中はリーゼルの家でゆったりと魔法の研究をしている(私は天才なので、特に道具等がなくても、どこでも研究できるのだ)。

 旅に出た当初の目的である、『禁断の地、ダンゼルド』の情報を集めるため、町の図書館に通ったり、古書店を巡って色々と調べてみたが、特にめぼしい発見はなかった。

 まあ、別に大急ぎで『禁断の地、ダンゼルド』の場所を特定したいってわけじゃないから、のんびり探すわ。だいたい、すぐにわかっちゃうような場所なら、わざわざ旅に出て探す面白味がないものね。

 リーゼルは毎日、例の繁華街や、他にも人通りの多い路地に出向いては、『至高なる魔女の会』所属の魔法使いをターゲットにして、スリを繰り返している。

 彼女の目的である『プラチナカード』は、あと一枚。もう少しで念願が叶うということで、俄然やる気になっているのか、リーゼルは朝昼晩――ほとんど一日中、積極的にスリ活動にいそしんでいた。

 積極的といっても、手当たり次第に黒帽子の魔法使いを狙うようなことはなく、よく相手を吟味して、細心の注意を払っているようだった。シャーリー・シャールの時のように、戦いになることは、もう絶対に避けたいらしい。

 私の見る限り、『至高なる魔女の会』のほとんどの会員より、リーゼルの方が圧倒的に強いだろうから、戦いになったら戦いになったで、強力な魔法を使って叩きのめしてやればいいと思うのだが、まあ、リーゼルに戦う気がないなら、仕方ないか。

 そして今日。

 リーゼルはとうとう、5枚目のプラチナカードを入手したのである。

 盗んだ相手は、『至高なる魔女の会』のナンバー8、クダレーネ・クドレーネという女の子だ。ナンバー8ということだから、あのシャーリー・シャールより格上なのだろうが、クダレーネはあまり警戒心のない方らしく、盗まれた財布を取り返しに来るようなことはなかった。

 リーゼルは財布からプラチナカードだけを抜きとり、それ以外のお金やカード類には一切手を付けず、財布ごと魔法で転送し、クダレーネの元に返してあげていた。リーゼル曰く、『プラチナカード以外を取る気はない』とのことだ。

 物を転送する魔法は非常に難しいが、取ったものを持ち主に返す場合は話が別で、比較的簡単におこなうことができる。だが、それでも高等魔法であることは間違いない。

 強力な攻撃魔法に立体映像作成魔法、そして今見せたばかりの転送魔法。そのすべてを自由自在に使いこなすリーゼルの万能ぶりに、私は素直に感心した。……しかし、盗むのはプラチナカードだけで、金品は少しも奪わないのなら、どうやって生活費を捻出しているのだろう?
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