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第81話(デルロック視点)

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「兄上、さっきの僕の話、聞いていなかったんですか? 魔力を高められるのは、『波長の合う命』だけなんです。小汚い浮浪者の命なんかが、僕と波長が合うはずないじゃないですか。それに、魔力を持ってない人間の命なんて、吸ってもたかが知れています。殺人のリスクとは、とても釣り合いませんよ」

「で、では、魔導師か聖職者を攫ってこよう。そいつらなら間違いなく魔力があるし、お前と波長の合う命を持ったものもきっといるはずだ。この痺れを治してくれたら、私も協力する。私たちは世界でたった二人の兄弟だ。故郷も滅んでしまった今、二人で力を合わせ頑張るべきだ、なあ、そうだろう?」

「ふむ……兄上と二人で人攫い……ですか。なかなか面白そうですが、それはちょっと無理なんです」

「な、何故だ?」

「この町の人間に手を出すことは、僕を手術した魔女――フェルヴァさんにきつく止められていましてね。もしそんなことをしたら、僕はその日のうちに消されてしまいます。だから今のところ、この国の外の人間……つまり、僕に付き従ってきた臣下の命しか吸っていないんです。せっかく念願の魔法使いになれたのに、消されるのは嫌ですからね」

 私は、なおも食い下がる。
 ここで説得できなければ、たぶんもう次のチャンスはないからだ。

「魔女なんて、恐れることはないだろう! お前は人の命を吸えば、どんどん魔力を高められるのだ! すぐに魔女の力など追い抜いて、反対に消し飛ばしてやればいい!」

 必死さが無意識に声に出て、私はほとんど怒鳴るようだった。
 だが、命を絞りだすような怒声も、マールセンの心を動かすことはなかった。

「無理ですよ。フェルヴァさんは正真正銘の怪物です。ちょっとやそっと人間の命を吸って魔力を高めたくらいじゃ、とてもかないません。それに僕は、彼女に対し、少しばかりシンパシーってやつを感じてましてね。できれば対立したくないんですよ」

 そう言いながらマールセンは手のひらを広げ、私の額に触れた。

 次の瞬間、不気味な感覚が頭の中に広がっていく。

 その『不気味な感覚』は、頭から首、首から胸、胸から腹へと伝わり、さらにそこから手足へと、波のように伝播していく。そして、指の先まで伝わりきった『不気味な感覚』は、今度は逆流するように頭へと戻っていく。

 ああああ。

 これは。
 これはまるで。

 全身の血液を吸われているようだ。

 間違いない。
 マールセンは話を切り上げ、私の命を吸い始めたのだ。

 私は震えながら、最後の命乞いをする。

「まっ、まっ、待てっ、待ってくれ、まだ、まだ話はっ、終わってないっ」
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