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第78話(デルロック視点)
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「……実験?」
「ええ。今から一ヶ月くらい前だったかな……? 僕、その『死人を復活させる薬』をね、民衆たちが共用で使っている井戸の中に投げ入れたんですよ。あの薬、完全な無味無臭だから、誰も気づかなかったと思いますけど」
「馬鹿な。民衆を怪しげな薬の実験台にするなど、どんな暴君でもやらないことだぞ。その『死人を復活させる薬』とやらの効果が見たいのなら、治験という形で、被験者を募れば良かっただろう。報奨金さえ出せば、ある程度は協力する者がいたはずだ」
「いやあ、どうでしょう。この薬の効果は、結局のところ、被験者が死んでからじゃないと、確認できないじゃないですか。つまり、治験に参加した者は、死ななければならないことになる。いくら多額の報奨金を受け取っても、死んでしまったらなんにもなりませんから、協力してくれる人を見つけるのは、なかなか難しいと思いますよ」
「だが、それでも、根気よく探せば、一人か二人くらいなら、家族に金を渡すことを条件に協力する者もいただろう」
「それはそうでしょうけど、えっと、その……」
「なんだ? ハッキリ言え」
「そこまでするのは、ちょっと面倒だったので……」
「め、面倒って、お前……そんな……」
「それに、一人や二人じゃなくて、怪奇小説のように、大勢の死人がウロウロと動き回る光景が見たかったんです。だから、追放されなかったら、僕はそのうち毒か何かを使って、ある程度まとまった数の民衆を自然死に見せかけて殺すつもりでした」
「…………」
「でも、毒の霧のおかげで、その手間がはぶけて良かったです。いつか、僕自身の目で、生きている人間が誰もいなくなった町をうろつくアンデッドたちを見に行きたいなあ」
次から次へと、正気を疑うような発言がマールセンの口から飛び出し、私の脳がそれを聞くことを拒否しているかのように、気が遠くなっていく。私はもはや、相槌すら打つことができなかった。
だが、私の相槌などマールセンにとってはどうでもいいことのようで、奴はすらすらと、楽しげに話を続けている。
「あっ、でも、案外今頃は、『死人を復活させる薬』の効果も切れて、もう皆、ただの死体に戻っちゃってたりするのかな。う~ん、残念。だけど、兄上の口から実験の結果が聞けて、とりあえずは満足です。『死人を復活させる薬』はまだ残ってますし、今度、またどこかの国で実験をしてみることにします。あはは」
マールセンは、愉快そうに笑った。
その笑いに、悪びれる様子は、まったくない。
本当に、天真爛漫な笑いだった。
こ……こいつ……
こいつは……
異常者だ。
私も、人のことを責められるような人格ではない。
あの『土着の悪魔』にも散々なじられたが、私自身、身勝手な性格だと思う。
だがマールセンの異常性は、私の身勝手さとは、何かが根本的に違う。
こいつからは、人間らしい感情が少しも感じられない。マールセンの魂は、何か、人の心にとって重要な部分だけがスッポリと抜け落ちてしまっているとしか思えない。
善人のふりをしてクーデターを防いでいたり、父上や私の身を守っていたのも、単に、騒動が起こるのが面倒だったから、適当に立ち回っていただけなのだろう。あるいは、自分の弁舌ひとつで、他人が右往左往しているのを見て楽しんでいたのかもしれない。
「ええ。今から一ヶ月くらい前だったかな……? 僕、その『死人を復活させる薬』をね、民衆たちが共用で使っている井戸の中に投げ入れたんですよ。あの薬、完全な無味無臭だから、誰も気づかなかったと思いますけど」
「馬鹿な。民衆を怪しげな薬の実験台にするなど、どんな暴君でもやらないことだぞ。その『死人を復活させる薬』とやらの効果が見たいのなら、治験という形で、被験者を募れば良かっただろう。報奨金さえ出せば、ある程度は協力する者がいたはずだ」
「いやあ、どうでしょう。この薬の効果は、結局のところ、被験者が死んでからじゃないと、確認できないじゃないですか。つまり、治験に参加した者は、死ななければならないことになる。いくら多額の報奨金を受け取っても、死んでしまったらなんにもなりませんから、協力してくれる人を見つけるのは、なかなか難しいと思いますよ」
「だが、それでも、根気よく探せば、一人か二人くらいなら、家族に金を渡すことを条件に協力する者もいただろう」
「それはそうでしょうけど、えっと、その……」
「なんだ? ハッキリ言え」
「そこまでするのは、ちょっと面倒だったので……」
「め、面倒って、お前……そんな……」
「それに、一人や二人じゃなくて、怪奇小説のように、大勢の死人がウロウロと動き回る光景が見たかったんです。だから、追放されなかったら、僕はそのうち毒か何かを使って、ある程度まとまった数の民衆を自然死に見せかけて殺すつもりでした」
「…………」
「でも、毒の霧のおかげで、その手間がはぶけて良かったです。いつか、僕自身の目で、生きている人間が誰もいなくなった町をうろつくアンデッドたちを見に行きたいなあ」
次から次へと、正気を疑うような発言がマールセンの口から飛び出し、私の脳がそれを聞くことを拒否しているかのように、気が遠くなっていく。私はもはや、相槌すら打つことができなかった。
だが、私の相槌などマールセンにとってはどうでもいいことのようで、奴はすらすらと、楽しげに話を続けている。
「あっ、でも、案外今頃は、『死人を復活させる薬』の効果も切れて、もう皆、ただの死体に戻っちゃってたりするのかな。う~ん、残念。だけど、兄上の口から実験の結果が聞けて、とりあえずは満足です。『死人を復活させる薬』はまだ残ってますし、今度、またどこかの国で実験をしてみることにします。あはは」
マールセンは、愉快そうに笑った。
その笑いに、悪びれる様子は、まったくない。
本当に、天真爛漫な笑いだった。
こ……こいつ……
こいつは……
異常者だ。
私も、人のことを責められるような人格ではない。
あの『土着の悪魔』にも散々なじられたが、私自身、身勝手な性格だと思う。
だがマールセンの異常性は、私の身勝手さとは、何かが根本的に違う。
こいつからは、人間らしい感情が少しも感じられない。マールセンの魂は、何か、人の心にとって重要な部分だけがスッポリと抜け落ちてしまっているとしか思えない。
善人のふりをしてクーデターを防いでいたり、父上や私の身を守っていたのも、単に、騒動が起こるのが面倒だったから、適当に立ち回っていただけなのだろう。あるいは、自分の弁舌ひとつで、他人が右往左往しているのを見て楽しんでいたのかもしれない。
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