追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第75話(デルロック視点)

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「まさか、お前、自分に付き従っていた配下たちの命を、吸い取ったのか……?」

「ええ、まあ、そういうことです。ふふ、せっかく魔法使いになれたのですから、一秒でも早く自分の能力を試してみたかったんですよ。……さすがは追放された僕にわざわざついて来てくれた忠臣たちです、波長がピッタリ合い、皆、一人の例外もなく、僕の魔力を高める糧となってくれました」

 マールセンは、相変わらずニコニコと笑っていた。
 その顔には、一切の罪悪感がない。

 狂ってる。

 なんなんだ……?
 いったい、なんだこいつは……?

 本当に、私の知るマールセンと同一人物なのか?

 私は恐怖を感じ始め、無意識のうちに、マールセンから離れようとした。

 ……だが、おかしい。
 体が動かない。

 疲れのせいというわけではない。いくら疲れていても、こんな、痺れたように体が動かぬことなど、あるはずがない。おかしい。おかしいぞ。これは本当におかしい。

 困惑する私の隣にマールセンは腰かけ、肩を抱くようにして甘く囁く。

「兄上、さっきの紅茶、甘かったでしょう? あれ、痺れ薬の味をごまかすために、多めに砂糖を入れておいたんです。どうしても、兄上の動きを止めておきたくて」

 私は、驚愕した。そして、『いったいどういうつもりだ』と声に出そうとしたが、もう舌まで痺れ、声を発することはできなくなっていた。

「兄上は生まれつき魔法に対する抵抗力がありますからね。魔法使いになりたての僕の魔法程度じゃ効かないと思って、一服盛らせていただきました。……でも、あまり嫌な痺れじゃないでしょう? 痺れ薬の中には、痛みを感じるタイプもありますが、僕が使ったのは、そんな非人道的な薬じゃありません。どちらかと言えば、快感すら覚えるはずです」

 その通りだった。
 全身がしびれて動けないが、ピリピリとした痺れが、妙に心地よい。

 だが、その心地よさが、恐ろしい。

 痺れ薬の毒で私の『動きだけ』を止めたということは、服毒させることそのものが目的ではなく、動きを止めて、何かやりたいことがあるに違いない。マールセンの奴、今からいったい、何をするつもりなんだ。

 まさか、拷問でもする気か。
 こいつ、自分を追放した私を、それほどまでに恨んでいたのか。

 そんな私の意思を、視線から悟ったのか、マールセンは首を左右に振って言う。

「兄上、僕は兄上のことを恨んでなどいませんよ。むしろ、感謝しているくらいです。兄上が僕を追放してくれなかったら、僕はいつまでたっても『魔法使いになる手術』を受ける踏ん切りがつかず、迷っている間に、チャンスを逃していたかもしれませんからね」
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