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第68話(デルロック視点)
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国境を越えた私は、夜の闇の中、街道を進み続けている。
愛馬ルドウェンに川で水を飲ませたり、道の草を食べさせたりしていたので、思った以上に進みが遅く、じれったい。……無理もないか、ルドウェンは早駆けが得意な馬であり、その脚質は遠乗りには向いていないのだから。
だが、こんな時間にタラタラと街道を進んでいては、野盗か何かに襲われても不思議ではない。もう少しペースを上げなければ。
そう思った私は、駿馬とは思えぬ牛のような歩みを繰り返すルドウェンの横腹を軽く蹴り、『快速で前進せよ』の指示を出す。
しかし、慣れない遠乗りで疲れたルドウェンは、不満げに「ブルルッ」と鼻を鳴らし、走ることを拒否した。……それどころか、今のひと蹴りで本格的に機嫌を崩してしまったらしく、なんとルドウェンは、そのまま街道に座り込んでしまう。
「おい、ルドウェン、どうした? 立て、進め、進むんだ! もう少し行けば、この国の都に着く。あと少しなんだぞ!」
必死に活を入れる私だったが、ルドウェンはもはや、一歩たりとも進む気がないようであり、微動だにしない。眠たそうにあくびをして、とうとう首まで下げてしまった。
「くっ、くそっ。そんなに動きたくないなら、勝手にしろ! 私は一人で行く!」
どのみち、ここまでくれば都まではあと少しだ。
動かぬ馬に跨っているよりは、自分の足で進んだ方が遥かに確実に前に進む。
私はルドウェンから降り、肩を怒らせ、のしのしと街道を進んでいく。
……その元気も、すぐにしぼんでいった。
心も体も疲れ切った今。
暗い街道を、一人歩き続けるのは、思った以上に心細く、つらかった。
やはり、もう一度ルドウェンのところに戻ろうかと思い、振り向く。
……なんと、先程の場所に、ルドウェンはもういなかった。先ほどの眠そうなそぶりが、ただの気まぐれだったのか、それとも本気だったのかは分からないが、無茶な遠乗りから解放されて、意気揚々と、どこかに行ってしまったのだろう。
これで、泣こうが喚こうが、私は一人で進み続けるしかなくなった。
重たい足を引きずるようにして、一時間、二時間と、ひたすら歩き続ける。くそっ……ルドウェンがちゃんと私の言うことを聞いていたなら、とっくの昔にこの国の都についていたのに……
だが、それでも、動く気のなくなったルドウェンに乗っかったままでいるよりは、自分の足で歩く方が、正しい決断だったと思う。一歩ずつだが、確実に目的地に向かって進んでいくのだから。
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国境を越えた私は、夜の闇の中、街道を進み続けている。
愛馬ルドウェンに川で水を飲ませたり、道の草を食べさせたりしていたので、思った以上に進みが遅く、じれったい。……無理もないか、ルドウェンは早駆けが得意な馬であり、その脚質は遠乗りには向いていないのだから。
だが、こんな時間にタラタラと街道を進んでいては、野盗か何かに襲われても不思議ではない。もう少しペースを上げなければ。
そう思った私は、駿馬とは思えぬ牛のような歩みを繰り返すルドウェンの横腹を軽く蹴り、『快速で前進せよ』の指示を出す。
しかし、慣れない遠乗りで疲れたルドウェンは、不満げに「ブルルッ」と鼻を鳴らし、走ることを拒否した。……それどころか、今のひと蹴りで本格的に機嫌を崩してしまったらしく、なんとルドウェンは、そのまま街道に座り込んでしまう。
「おい、ルドウェン、どうした? 立て、進め、進むんだ! もう少し行けば、この国の都に着く。あと少しなんだぞ!」
必死に活を入れる私だったが、ルドウェンはもはや、一歩たりとも進む気がないようであり、微動だにしない。眠たそうにあくびをして、とうとう首まで下げてしまった。
「くっ、くそっ。そんなに動きたくないなら、勝手にしろ! 私は一人で行く!」
どのみち、ここまでくれば都まではあと少しだ。
動かぬ馬に跨っているよりは、自分の足で進んだ方が遥かに確実に前に進む。
私はルドウェンから降り、肩を怒らせ、のしのしと街道を進んでいく。
……その元気も、すぐにしぼんでいった。
心も体も疲れ切った今。
暗い街道を、一人歩き続けるのは、思った以上に心細く、つらかった。
やはり、もう一度ルドウェンのところに戻ろうかと思い、振り向く。
……なんと、先程の場所に、ルドウェンはもういなかった。先ほどの眠そうなそぶりが、ただの気まぐれだったのか、それとも本気だったのかは分からないが、無茶な遠乗りから解放されて、意気揚々と、どこかに行ってしまったのだろう。
これで、泣こうが喚こうが、私は一人で進み続けるしかなくなった。
重たい足を引きずるようにして、一時間、二時間と、ひたすら歩き続ける。くそっ……ルドウェンがちゃんと私の言うことを聞いていたなら、とっくの昔にこの国の都についていたのに……
だが、それでも、動く気のなくなったルドウェンに乗っかったままでいるよりは、自分の足で歩く方が、正しい決断だったと思う。一歩ずつだが、確実に目的地に向かって進んでいくのだから。
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