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第54話
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「みんなって? この町のみんな?」
リリエンヌは、しっかりと首を左右に振る。
そして、つい先程までとは全く違う、毅然とした瞳で私を見て、言った。
「いいえ。世界じゅうのみんなです」
「へえ、そりゃ、大きく出たわね。そう簡単にできることとは思えないけど」
「そうですね。しかし、だからこそやる価値がある。そして、私たち『至高なる魔女の会』なら、それが可能なのです」
……なに、この子。
さっきまでと、雰囲気が全然違う。
もう、少しもオドオドしていないし、発言に、微塵の迷いもない。
私は訝しみながらも、話を続けることにした。
「具体的に、どうやって世界中の皆を幸せにするわけ? 魔法で貴金属を大量に作って、皆にばらまくとか、そういうんじゃないでしょうね」
「違いますよ。そんなことをしても、人は幸せにはなれませんから。……そういえば、まだあなたの名前を伺っていませんでしたね。差し支えなければ、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「ラディアよ」
「どうも。……ラディアさん、生きることには様々な苦悩が伴うものです。世の人々は、それぞれ、色々なことに悶え、苦しんでいます。貧困に悩む人々も多いですから、今さっきあなたが述べたように、貴金属を配るというのも、人を幸せにするための方法として、まったくの的外れというわけでもありません」
「…………」
「でもね、たとえ金銭的に満たされたとしても、それで苦しみがなくなるかと言えば、そうでもないんです。……この国は、世界的に見ればかなり裕福な国ですが、毎年何百人も自殺者が出る。食べるのにも、寝床にも困らず、嗜好品を買うお金すらあるのに、かなりの数の人間が、孤独や不安に思い悩み、自ら死を選ぶ。悲しいことだとは思いませんか?」
リリエンヌは、本心から自殺者たちを憐れむように、天を仰いだ。
私は短く、「そうね」とだけ返事をする。
「そして、自殺するまでには至らなくても、毎日苦しみ、『自分はなんて不幸なんだ』『自分はこの世界に一人ぼっちだ』と嘆いている人間は、それこそ星の数ほどいる。……そういう人たちにはね、生きるための指針となる『思想』と、信頼し合う『仲間』が必要なんですよ」
「生きるための指針と仲間か。ま、確かに、悩んでる孤独な人間にとっては、一番必要なものかもね」
「そうです。迷いを打ち払うような強い『思想』があれば、人生に道しるべができ、『仲間』がいれば、孤独は癒える。単純なようですが、この二つが、人を幸せにする上で、最も大事なものなんです。私たち『至高なる魔女の会』は、苦しむ人々すべてに、この二つを届けたいと思っています」
「でも、あなたの言う『思想』って、つまりは『魔法使い優生思想』のことでしょ? で、『仲間』っていうのも、魔法使い限定の話よね。それじゃ結局、世界中の皆を幸せにすることなんて、不可能じゃない? 世の中には、魔法を使えない人たちの方が、圧倒的に多いんだから」
なかなか厳しい指摘だと思うが、リリエンヌはたじろぐ様子もなく、にこやかに微笑んた。
リリエンヌは、しっかりと首を左右に振る。
そして、つい先程までとは全く違う、毅然とした瞳で私を見て、言った。
「いいえ。世界じゅうのみんなです」
「へえ、そりゃ、大きく出たわね。そう簡単にできることとは思えないけど」
「そうですね。しかし、だからこそやる価値がある。そして、私たち『至高なる魔女の会』なら、それが可能なのです」
……なに、この子。
さっきまでと、雰囲気が全然違う。
もう、少しもオドオドしていないし、発言に、微塵の迷いもない。
私は訝しみながらも、話を続けることにした。
「具体的に、どうやって世界中の皆を幸せにするわけ? 魔法で貴金属を大量に作って、皆にばらまくとか、そういうんじゃないでしょうね」
「違いますよ。そんなことをしても、人は幸せにはなれませんから。……そういえば、まだあなたの名前を伺っていませんでしたね。差し支えなければ、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「ラディアよ」
「どうも。……ラディアさん、生きることには様々な苦悩が伴うものです。世の人々は、それぞれ、色々なことに悶え、苦しんでいます。貧困に悩む人々も多いですから、今さっきあなたが述べたように、貴金属を配るというのも、人を幸せにするための方法として、まったくの的外れというわけでもありません」
「…………」
「でもね、たとえ金銭的に満たされたとしても、それで苦しみがなくなるかと言えば、そうでもないんです。……この国は、世界的に見ればかなり裕福な国ですが、毎年何百人も自殺者が出る。食べるのにも、寝床にも困らず、嗜好品を買うお金すらあるのに、かなりの数の人間が、孤独や不安に思い悩み、自ら死を選ぶ。悲しいことだとは思いませんか?」
リリエンヌは、本心から自殺者たちを憐れむように、天を仰いだ。
私は短く、「そうね」とだけ返事をする。
「そして、自殺するまでには至らなくても、毎日苦しみ、『自分はなんて不幸なんだ』『自分はこの世界に一人ぼっちだ』と嘆いている人間は、それこそ星の数ほどいる。……そういう人たちにはね、生きるための指針となる『思想』と、信頼し合う『仲間』が必要なんですよ」
「生きるための指針と仲間か。ま、確かに、悩んでる孤独な人間にとっては、一番必要なものかもね」
「そうです。迷いを打ち払うような強い『思想』があれば、人生に道しるべができ、『仲間』がいれば、孤独は癒える。単純なようですが、この二つが、人を幸せにする上で、最も大事なものなんです。私たち『至高なる魔女の会』は、苦しむ人々すべてに、この二つを届けたいと思っています」
「でも、あなたの言う『思想』って、つまりは『魔法使い優生思想』のことでしょ? で、『仲間』っていうのも、魔法使い限定の話よね。それじゃ結局、世界中の皆を幸せにすることなんて、不可能じゃない? 世の中には、魔法を使えない人たちの方が、圧倒的に多いんだから」
なかなか厳しい指摘だと思うが、リリエンヌはたじろぐ様子もなく、にこやかに微笑んた。
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