上 下
45 / 144

第45話(デルロック視点)

しおりを挟む
 女神は、いったいどれだけの時間、笑っていたのだろう。

 いい加減に、はしゃぐのにも、笑うのにも飽きたのか、彼女は地面に大の字になり、「はああああぁぁぁぁ~」と大きく息を吐いた。

 そして訪れた、圧倒的な静寂。

 つい先程まで、女神がけたたましい声で笑いまくっていたので、いきなり無音になると耳鳴りがする。私は耳の下を軽く手で押さえ、それから女神に問いかけた。

「あ、あの、女神様……そろそろ私を、ここから逃がしてほしいのですが……」

「行けよ」

「えっ?」

「だから、勝手に行けよ。誰も、てめぇを引き留めちゃいねぇよ。隣国にでもなんでも、勝手に行きゃいいだろ」

「い、いや、しかし……地上には、あの毒の霧が……それに暴徒どもも、まだうろついているでしょうし、私一人の力では……」

「知らねぇよそんなもんよおおぉぉぉぉ~、なんでも人に頼ってんじゃねぇよアホがぁぁぁ、俺ぁてめぇのママじゃねぇんだからよおぉぉぉぉぉ、自分のことくらい自分で何とかしろやこのボケがぁぁぁぁぁ」

 な、なんという下劣な喋り方だ。
 さっきから、女神の様子が明らかにおかしい。

 まさか、彼女も紫の霧を吸い、精神に何らかの影響を受けているのか? ……あり得るな。ここは、通風孔のすぐ近くだ。今までは大丈夫だったが、とうとうここからも、紫の霧が入って来たのかもしれない。

 大変だ。この女神までどうにかなってしまったら、私を救ってくれるものは、もう誰もいなくなる。とりあえず、場所を移動しなければ。

 私は女神のそばで片膝をつくと、頭を垂れて言う。

「女神様、お気を確かに。通風孔から、例の霧が入ってきている可能性があります。今すぐここから……」

「おい」

 女神は、ドスの利いた声で私の言葉を遮った。
 それから彼女はゆっくりと体を起こし、私の目の前に立つ。

 おお……これはまるで、いつか見た神託の夢のようだ。
 私は、女神が何か言葉を授けてくれるのだろうと思い、黙る。

 すると女神は、まるでチンピラのように膝を開いてしゃがみ、私の眼前に顔を近づけ、言い放った。

「おめぇよぉ、いい加減に気づけよ。こんな汚ねぇ喋り方する女神がいるわけねぇだろ」

「は……? そ、それは、どういう意味でしょうか……?」

「どういう意味もこういう意味もあるか。言った通りの意味だよ。俺、女神じゃねぇのよ。考えてもみろよ、俺、一度だって、『わたくしは女神です~』なんて言ったか? 言ってねぇよな? おめぇが勝手に勘違いしたのさ」

「で、では、あなたはいったい、何なのですか……?」

「ん~、別に、その問いに答える必要はねぇんだが、まあ、お前は色々役に立ってくれたからな、一応、教えてやるとするか。こう見えても俺は義理堅いんだ。……おい、お前、『土地神』って知ってるか?」

 土地神……?
 神ではなく、土地神……?
 言葉自体は聞いたことがある気がするが、どんなものかは、よく知らない。

 だから私は、無言で首を左右に振った。

「かあああぁぁぁ、不勉強な野郎だなぁ。身勝手で、教養もなく、信仰心も低い。こんなのが王族だなんて、土地神のオッサンも、さぞかしショックだろうぜ。ま、いいや、話を戻そう。……この世界には、様々な地方、様々な大地がある。その大地ごとにな、守護神的な『土着の神』がいるのよ。それを、『土地神』って言うのさ」
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...