追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第30話

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 現在、午前11時。

 私はリーゼルと一緒に、昨日も訪れた、例の繁華街に来ていた。

 リーゼルは昨日のコート姿とは違い、ややラフな格好をしている。
 彼女曰く『いつも同じ格好だと、ターゲットに怪しまれるから』とのことだ。

 そう。
 リーゼルは現在、スリのターゲットを探しているのである。

 何故私が、リーゼルについて来たのかと言うと、彼女の言う『ターゲット』に、少々興味を持ったからだ。

 リーゼルは先程、自分のスリのターゲットは『世の中を滅茶苦茶にしようとしてる、悪い魔法使い』だと言った。……リーゼルの話では、この町では『とある魔法使いの集団』が何かの活動をしており、そいつらの目的は『世の中を滅茶苦茶にすること』らしい。

 で、その魔法使いの集団のトレードマークが、私がかぶっているのと似たような、『いかにも魔法使いって感じの黒帽子』だそうだ。だからリーゼルは、私もその、悪い魔法使いたちの一員だと勘違いしたという。

 悪い魔法使いか……

 私、魔法を悪用する連中って、嫌いなのよね。

 誤解を恐れずにあえて言うが、魔法使いとは『特別な存在』だ。常人にはできないことを、平然とやることができるし、その呪文は、どんな刃物よりも危険な凶器となり得る。……だから、魔法を使う人間には『特別な存在』としての、『特別な責任』があると、私は思う。

 魔法を使って善行しろとまでは言わないが(私だって、『自分は善人だ』って胸を張って言えるほどできた人間じゃないし)、魔法を悪用することだけは、あってはならないことだ。

 もしも、リーゼルの言う『とある魔法使いの集団』とやらが、本当に悪質な連中だったら、少し懲らしめてやる必要がある。そういうわけで、私はリーゼルについて来たのである。

 二人で雁首そろえて突っ立っていると目立つとのことなので、私はリーゼルから離れたところで、通りを歩く人を、ぼおっと眺めていた。

 いやぁ、それにしても、人、人、人。とにかく、凄い人だ。昨日の夜も人でいっぱいだったけど、日中の今の方が、倍は人がいて、見知らぬ他人同士、肩を擦り合わせるようにして大通りを行き来している。

 こんなに大勢の人が、どこから来て、そして、どこに行くのかしら。私はこの人たちと、一生口をきくことはないでしょうけど、皆、人それぞれ、日々の生活と、喜びや悩み、そして、生きる目的があるんでしょうね。

 そんなことを思っていると、リーゼルが動き出した。

 リーゼルは人ごみの中を縫うようにして、静かに、そして素早く進んでいく。……彼女の進行方向には、なるほど、確かに私と同じような黒帽子をかぶった、いかにも魔法使いっぽい女がいた。年齢は、二十歳そこそこってところかな。ハデハデな赤い髪をした、ちょっと性格のキツそうなタイプである。

 そして、昨日、私にそうしたように、リーゼルは黒帽子の女に軽くぶつかった。

 軽く。
 本当に、かる~くである。

 これ以上強い力でぶつかられたら、いくら人ごみの中でも、『なんだこいつは』とムッとされ、そして、警戒もされたことだろう。しかし、今リーゼルがぶつかった程度の勢いなら、それほど気にされることはない。まさに、絶妙な力加減だった。

 リーゼルは顔を伏せ、小さく「すいません」と述べると、そのまま歩いて行く。黒帽子の女は、リーゼルを一瞥すらせず、道の向こうに行ってしまった。あの調子では、リーゼルにぶつかられたことにすら、気がついていないかもしれない。
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