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第19話
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先程彼女が言った通り、スリの家に泊まるなんて、普通では考えられないことだろうが、これまでの会話で、私は彼女になんとなく好感を抱いていたし、何よりもうめちゃくちゃ眠たかったので、屋根の下で眠れるならどこでもいいって感じの気分だったのだ。
もちろん、完全に彼女に心を許したわけではない。
もしも、何か私に害をなそうとしたときは、さっき見せた浮遊魔法より遥かに強烈な魔法を使って、お仕置きをしてやるだけのことだ。
歩きながら、スリの少女はこちらをちらりと振り返り、言う。
「俺は、リーゼル・アストラス。あんたの名は?」
私は、大あくびをしながら答えた。
「ラディアよ」
お互いに、名前を言うだけの、そっけない自己紹介だった。
しかし私は、スリの少女――リーゼルに対し、少しだけ感心した。
リーゼルがちゃんと、自分から名を名乗ったからだ。
人に名を尋ねる時はまず自分から――
当たり前の礼儀ではあるが、まだ子供で、しかも窃盗犯であるリーゼルが、この『当たり前の礼儀』をちゃんと守ったことが、ちょっとだけ意外だった。悪ぶっており、ぶっきらぼうだが、性根は案外ちゃんとしているのかもしれない。
そんなことを思っているうちに、私たちはどんどん寂しい裏通りに入り込んでいく。繁華街で煌々と輝いていたネオンは完全に消え去り、路地に差し込むのは、淡い月の光だけ。人通りもなく、ここでなら、どんな犯罪行為がおこなわれても、誰も助けてはくれないだろう。
そこまで考えて、私は苦笑した。
人でいっぱいの表通りでも、私がお財布をすられた時、誰も助けてはくれなかった。どれだけの人間がいても、自分に対して何のアクションも起こしてくれないのであれば、結局は誰もいないのと同じ。何やら哲学的である。
一人でクスクスと笑っている私を、リーゼルは若干怪訝そうな目で見たが、特に茶々を入れるようなことはなく、短く言う。
「俺の家はこの先だ。もうすぐ着くよ」
「そう。それにしても、随分と寂しいところに住んでるのね」
「やかましい表通りより、ずっとマシさ。家賃も安いしね」
そして私たちは、リーゼルの家に到着した。
リーゼルの家は、メゾネットタイプの集合住宅の、左端部分だった。
私は再び大あくびをかいてから、言う。
「思ったよりちゃんとした家ね。スリのねぐらだから、もっと反社会的な建物を想像してたわ」
「ふふ、『スリのねぐら』とは、ハッキリ言ってくれるね。それじゃ、スリのねぐらに、世間知らずの魔法使い様をご招待だ。ほら、入んなよ」
「はぁい、お邪魔しま……」
「ちょっ、おいおいおい、靴!」
「えっ? 靴が、どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないよ。家に上がる時は、普通、靴、脱ぐだろ」
「あっ、そうなの。この辺りは、土足文化じゃないのね。ごめんなさい、私の住んでた国では、靴を脱ぐ習慣がなかったから」
もちろん、完全に彼女に心を許したわけではない。
もしも、何か私に害をなそうとしたときは、さっき見せた浮遊魔法より遥かに強烈な魔法を使って、お仕置きをしてやるだけのことだ。
歩きながら、スリの少女はこちらをちらりと振り返り、言う。
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私は、大あくびをしながら答えた。
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人でいっぱいの表通りでも、私がお財布をすられた時、誰も助けてはくれなかった。どれだけの人間がいても、自分に対して何のアクションも起こしてくれないのであれば、結局は誰もいないのと同じ。何やら哲学的である。
一人でクスクスと笑っている私を、リーゼルは若干怪訝そうな目で見たが、特に茶々を入れるようなことはなく、短く言う。
「俺の家はこの先だ。もうすぐ着くよ」
「そう。それにしても、随分と寂しいところに住んでるのね」
「やかましい表通りより、ずっとマシさ。家賃も安いしね」
そして私たちは、リーゼルの家に到着した。
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「思ったよりちゃんとした家ね。スリのねぐらだから、もっと反社会的な建物を想像してたわ」
「ふふ、『スリのねぐら』とは、ハッキリ言ってくれるね。それじゃ、スリのねぐらに、世間知らずの魔法使い様をご招待だ。ほら、入んなよ」
「はぁい、お邪魔しま……」
「ちょっ、おいおいおい、靴!」
「えっ? 靴が、どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないよ。家に上がる時は、普通、靴、脱ぐだろ」
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