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第18話

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「それにしてもあんた、ここいらのこと、何も知らないんだな。地元の人間はもちろんだが、最近は観光客も、色々と事前に調べてから来るもんだからな、あんな見え見えのボッタクリ宿に入ろうとするのなんて、相当な間抜けくらいだぜ」

「相当な間抜けで悪かったですね。だって私、もう、凄く眠たいのよ。ああ~……『眠たい』って口に出したら、ますます眠くなってきたわ……」

 そこでふらつき、倒れそうになる私を、少年は支えた。

「お、おい、しっかりしろよ。重てぇな」

「失礼ね、重たくないわよ。私、小食なんだから」

「それでも、俺よりは重てぇよ。ほら、ちゃんと自分の足で立ちなよ」

「はぁい……おっとっと」

 言われた通り、自分の足で立とうとした際、私の肩が、少年の帽子のツバに引っかかってしまった。そのまま私が勢いよく立ったために、帽子はハラリと取れてしまう。

 次の瞬間。
 少年の帽子に収まっていた長い黒髪が、良い香りと共に、広がった。

 おお……?

 おおお……?

 都会では、男の子も長髪にするのが流行ってるのかしら?

 いや、違う。

 この子の顔立ち。
 まだ12~13歳くらいの子供ながらも、よく見ると、随分と艶のある美貌だ。

 私は思わず、ちょっとだけ声のトーンを上げて、言った。

「あなた、女の子だったのね」

 そして、地面に落ちてしまった彼女の帽子を拾うと、軽くホコリをはたき、差し出す。スリの少年――改め、スリの少女は、それを受け取ると、再び長い黒髪を帽子の中に収め、やや厳しい調子で言う。

「女だったら、なんか問題あるか?」

「いやいやそんな。めっそうもない。わたくし、男女差別はしない主義でございます」

「ふん、まあ、俺のことは別にいいよ。それよりあんた、立ってるのもしんどいくらい眠たいなら、うちに来るか? 小奇麗な所じゃないが、少なくとも、ボッタクリの宿に泊まるよりは、なんぼかマシだと思うぜ」

「いいの? それじゃ、お言葉に甘えようかしら。いい加減、宿を探すのも面倒になってきたところだし」

 即答した私に対し、少女はやや呆れたように言う。

「おいおい、ほんとに来るのかよ」

「あなたが、『うちに来るか?』って誘ったんじゃない」

「そりゃそうだけどさ。俺みたいなスリの家に誘われても、普通断るだろ。寝てるうちに、身ぐるみはがされるかもしれないしよ」

「あら、あなた、私の寝込みを襲うつもりだったの?」

「いいや。100パーセント善意で、寝床を提供してやろうと思っただけさ。さっき言ったろ、俺は、あんたのことが気に入ったんだ。それにあんた、凄い魔法使いではあるんだろうが、なんか、世間知らずな感じだしな。ほっとけないよ」

「意外と優しいのね。そんなあなたが、なんでスリなんかをやってるのか、ちょっと興味が出てきたわ」

「こっちにも色々事情があってね」

 そこで一旦会話は切れ、私はスリの少女に先導されるような形で、彼女の後について行く。
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