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第15話
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たぶん、この辺りでは、私みたいな旅人がスリにあうことなんて、日常茶飯事なのね。いやあ、それにしたって、目の前で窃盗がおこなわれたのに、このドライすぎる態度。『他人に何があろうと、結局のところ、自分には関係ない』という、人間の本質を垣間見るようで、実に興味深い。
おっとっと、そんなこと言ってる場合じゃなかったわ。
お財布の中には、それほど大したお金が詰まっているわけではないのだが、それでも流石に、旅を始めた初日に無一文になるのは困る。私は、もうずいぶんと向こうに行ってしまったスリの少年に対し、呼びかけた。
「お~い、きみ~。こう言っちゃなんだけど、そのお財布、そんなにお金、入ってないわよ~。この国の刑法がどうなってるのかは知らないけど、窃盗の罪を犯してまで手に入れる価値はないよ~」
だから、返してちょうだい。今なら大事にせず、許してあげる――
そう言葉を続けようとしたのだが、スリの少年は飛ぶがごとき軽やかさで走り続ける。あらら、聞く耳持たず、か。じゃ、しょうがない。力づくで、返してもらうとしましょうか。
私は少年を指さし、呪文を口ずさんだ。
次の瞬間、少年の体が、浮き上がった。
少年は驚き、もがくように走り続けるが、地面に足がついていなければ、たとえ100メートル走の世界王者でも、前に進むことはできない。私が自分の指をこちら側にくいっと曲げると、浮いたままの少年の体は、ゆっくりとこっちに向かって戻って来た。
そして、私の正面にご到着。
私は、『自分の身に何が起こっているのか理解できない』といった感じの少年に、ニッコリ微笑んで、なるべく優しい声で言う。
「さあ、お財布を返してちょうだい」
少年は、いまだに茫然としていたが、素直に頷くと、私に財布を差し出した。
はい、おかえりなさい、私のお財布。
そこで私は、少年を浮かせていた魔法を解除した。
中途半端な姿勢で宙に浮かんでいた少年は、お尻から地面に落ち、小さく「いでっ」と、苦痛の声を漏らす。まあ、人様のお財布を盗んだんだから、これくらいの罰は受けてもらわなきゃね。
だが、これ以上、彼を罰するつもりはない。無事にお財布も戻ってきたし、私は「あんまり悪さはしないように」と言うと、もうスリの少年には関心を払わず、再び宿を探して歩き始めた。
いやいや、それにしても、建物が多すぎて、どれが宿なのか、よくわからないわね。しかしそれでも、しばらく歩くと、わかりやすく看板を出してある宿をいくつか見つけることができた。
う~ん……
でも、どの宿も、ちょっと泊まるのは無理っぽいなあ~……
見るからに高級そうな宿は、絶対にお金が足りないし、明らかに恋人同士を対象にした宿も、一人で入るのはちょっと……。あと、ガラの悪い連中が正面でたむろしてる怪しい宿も、なんか嫌よねえ……
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だから、返してちょうだい。今なら大事にせず、許してあげる――
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はい、おかえりなさい、私のお財布。
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