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第8話(デルロック視点)
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だが、予想外のことが起こった。
長年の放蕩生活の影響で、大病を患い、かなり弱気になっていた父上は、毅然と諫言を述べたマールセンの行動にいたく感激し、あろうことか、長男である私を差し置いて、マールセンを王位継承者にすることを、重臣たちにほのめかし始めたのだ。
冗談じゃない。
大病に犯された父上の寿命は、あとわずかだ。もうちょっと待っていれば、この私が、何の問題もなく、王になれるはずだったのに……! マールセンめ、弟の分際で……!
くそっ。
私は、前からあいつが嫌いだったんだ。体が弱く、満足に槍も振るえないくせに、妙に頭が回り、きれいごとばかり述べている、不愉快な弟。
軍人たちは、武勇に優れた私の方を支持しているが、文官や、一部の大臣連中は、弟の方が後継者にふさわしいと思っている。……そこに、父上の意向が加われば、最後に勝つのはマールセンだ。ああ、くそっ。なんて忌々しい……
私は焦りと悔しさで、満足に眠れない日々を過ごした。
しかし、そんなある日のこと、夢を見たのだ。
素晴らしく神々しい、清らかな夢だった。
真っ白な雲の上。
私は、美しき女神の前で、平伏していた。
女神は、限りなく優しい声で、こう言った。
「首都から離れた森の深くで、邪悪な研究を続けている魔女がいます……彼女の名はラディア……その、ラディアという魔女を火あぶりにしなければ、国が亡びます……急ぎなさい……彼女を……殺しなさい……」
私は「はい」と返事をし、そこで目が覚めた。
身体は、大量の汗をかいていた。
手も、足も、鉛のように重い。
起きたばかりなのに、私は疲れ切っていた。
耳の中に。
そして、頭の中に。
女神の声が、ずっと残っている。
今まで聞いたどんな言葉よりも、深く、重い言葉。
それはゆっくりと、私の心に浸透していく。
私は、確信した。
これは、夢ではない。
私は、神託を授かったのだ。
父上が、民衆の不満逸らしのスケープゴートに仕立て上げた魔女ラディアが、神が危険視するほどの、邪悪な存在だったとは。これこそまさに、『嘘から出たまこと』と言うやつだな。
しかし、これはチャンスだ。
民衆の敵である魔女ラディアを私が仕留めれば、私は、民衆からの支持を集めることができる。そうなれば、父上も、文官どもも、マールセンに王位を継がせることが、非常に難しくなるに違いない。
そして私は、見事に魔女ラディアを国から追放し、今こうして、民衆の圧倒的な支持を得ることに成功した。理想を言えば、神託の通りに、魔女を火あぶりにしたかったが、こうして魔女の住居の残骸を見せびらかすだけでも、馬鹿な民衆は大満足だ。これで充分だろう。
私は、腹の底から溢れる笑いを、止めることができなかった。
見ろ、マールセン。
私を褒め称える愚民どもの顔を。
こいつらは、私が王になることを望んでいる。
お前は、お呼びじゃないんだよ。
今まで通り、部屋に籠って、本でも読んでいろ。
真の王者はただ一人。
それは、お前でも、父上でもない。
私だ。
私なら、この困窮した国を、立て直すことができる。
だって私は、神の啓示を受けた、選ばれしものなのだから。
その時、また、頭の中で声がした。
『愚か者。お前は、してはならぬことをした』
長年の放蕩生活の影響で、大病を患い、かなり弱気になっていた父上は、毅然と諫言を述べたマールセンの行動にいたく感激し、あろうことか、長男である私を差し置いて、マールセンを王位継承者にすることを、重臣たちにほのめかし始めたのだ。
冗談じゃない。
大病に犯された父上の寿命は、あとわずかだ。もうちょっと待っていれば、この私が、何の問題もなく、王になれるはずだったのに……! マールセンめ、弟の分際で……!
くそっ。
私は、前からあいつが嫌いだったんだ。体が弱く、満足に槍も振るえないくせに、妙に頭が回り、きれいごとばかり述べている、不愉快な弟。
軍人たちは、武勇に優れた私の方を支持しているが、文官や、一部の大臣連中は、弟の方が後継者にふさわしいと思っている。……そこに、父上の意向が加われば、最後に勝つのはマールセンだ。ああ、くそっ。なんて忌々しい……
私は焦りと悔しさで、満足に眠れない日々を過ごした。
しかし、そんなある日のこと、夢を見たのだ。
素晴らしく神々しい、清らかな夢だった。
真っ白な雲の上。
私は、美しき女神の前で、平伏していた。
女神は、限りなく優しい声で、こう言った。
「首都から離れた森の深くで、邪悪な研究を続けている魔女がいます……彼女の名はラディア……その、ラディアという魔女を火あぶりにしなければ、国が亡びます……急ぎなさい……彼女を……殺しなさい……」
私は「はい」と返事をし、そこで目が覚めた。
身体は、大量の汗をかいていた。
手も、足も、鉛のように重い。
起きたばかりなのに、私は疲れ切っていた。
耳の中に。
そして、頭の中に。
女神の声が、ずっと残っている。
今まで聞いたどんな言葉よりも、深く、重い言葉。
それはゆっくりと、私の心に浸透していく。
私は、確信した。
これは、夢ではない。
私は、神託を授かったのだ。
父上が、民衆の不満逸らしのスケープゴートに仕立て上げた魔女ラディアが、神が危険視するほどの、邪悪な存在だったとは。これこそまさに、『嘘から出たまこと』と言うやつだな。
しかし、これはチャンスだ。
民衆の敵である魔女ラディアを私が仕留めれば、私は、民衆からの支持を集めることができる。そうなれば、父上も、文官どもも、マールセンに王位を継がせることが、非常に難しくなるに違いない。
そして私は、見事に魔女ラディアを国から追放し、今こうして、民衆の圧倒的な支持を得ることに成功した。理想を言えば、神託の通りに、魔女を火あぶりにしたかったが、こうして魔女の住居の残骸を見せびらかすだけでも、馬鹿な民衆は大満足だ。これで充分だろう。
私は、腹の底から溢れる笑いを、止めることができなかった。
見ろ、マールセン。
私を褒め称える愚民どもの顔を。
こいつらは、私が王になることを望んでいる。
お前は、お呼びじゃないんだよ。
今まで通り、部屋に籠って、本でも読んでいろ。
真の王者はただ一人。
それは、お前でも、父上でもない。
私だ。
私なら、この困窮した国を、立て直すことができる。
だって私は、神の啓示を受けた、選ばれしものなのだから。
その時、また、頭の中で声がした。
『愚か者。お前は、してはならぬことをした』
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