追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第3話

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 あ~、なんか、もういいわ。
 これ以上、つきあってられない。

 私は、小さく呪文を口ずさむ。

 兵士の一人が、「おい、魔女が何か呪文を唱えたぞ。警戒しろ」と言ったときには、もう手遅れだった。彼らは皆、一瞬で石像に変わってしまい、警戒どころか、動くことも、喋ることすらも、できなくなってしまった。

 物言わぬ石像になったことで、先程までよりもずっと好感の持てる存在へと変わった兵士たちに、私は微笑む。

「安心しなさい。一生このままってわけじゃないから。三日ほどしたら、石化は解けるわ」

 そんな私に対し、鋭い声が浴びせられる。

「おのれ魔女め! よくも私の部下たちを!」

 声の主は、王太子デルロックだった。

 へぇ~、驚いた。
 私の石化呪文が効かないなんて。

 この人、多少なりとも、魔法に対する抵抗力があるのね。

 だが、それならそれで、別の脅し方がある。

 私はデルロックに向き直り、体内に満ち溢れる魔力を、火のように燃やし、放出した。赤黒いオーラが、私の周囲を、たちまちのうちに包み込んでいく。

 その、まがまがしい姿に、デルロックはおののいた。さっきまでの威勢はどこへやら、真っ青な顔で、「あ……ぁ……ぁ……」と、掠れた声を漏らしている。

 私は、静かに声をかけた。

「王子様。あなた、多少は魔法の才能があるのね。だから、石化の呪文を防ぐことができた。さて、それだけの魔法の才能があれば、この、私を包み込む膨大な魔力を、直接目で見ることもできるでしょう? ……なら、わかるわよね。私とあなたの、魔導師としての格の違いが」

 デルロックは、かすかに頷いた。

 今日は気候も良く、大量に汗をかくような日じゃないのに、デルロックの細い顎から、ぽたり、ぽたりと、汗がふたしずく、垂れ落ちた。こりゃ、相当にビビってるわね。よし、あと一押しだわ。

「私が本気になったら、石化なんて可愛い魔法じゃなくて、この魔力を直接ぶつけて、あなたを塵みたいに消し飛ばすこともできるのよ。わかったら、とっととおうちに帰りなさい。まだ私が、笑ってるうちにね」

 そして、私が魔力の放出を止めると、デルロックは美しいフォームで回れ右して、ものすごいスピードで家から出ていった。

 後には、私と、物言わぬ兵士の石像だけが残される。

 やれやれ。
 これで一件落着……というわけにはいかないでしょうね。

 私はコンコンと、兵士の石像をノックしながら考える。

 この兵士たち、よく見ると立派な鎧を着ている。恐らくはかなり位の高い、王族直属の近衛兵だろう。その、位の高い兵士を石に変え(そのうち元に戻るんだけど)、王太子デルロックを脅かした以上、もうこの国でのんびり研究を続けることはできないと思っておいた方が賢明だ。
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