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第64話
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胸中に、自分でもよくわからない感情が溢れ、私はキャロルを抱きしめる。もう身じろぎする気力もなくしたキャロルは抵抗なくそれを受け入れたが、不思議そうな声で聞いてきた。
「……なんで抱きしめるの?」
「わからない。でも、なんだかあなたがかわいそうで……」
「私、かわいそうじゃないわよ。だって、お父様とお兄様はいつも、私のことを『世界一恵まれた、世界一のお嬢様だ』って言ってるもの」
「そう……」
「でも、もしかしたら……」
キャロルはそこで言葉を切り、再び晴天を仰いだ。泣きすぎて、真っ赤になってしまった瞳の端から、もう一度だけポロリと涙の雫がこぼれる。
「本当は、かわいそうな子だったのかもね……。だって、こんなふうに私のことを抱きしめてくれる友達なんて、一人もいなかったもの……。取り巻きはいたけど、皆、ビクビクと私の顔色をうかがってるだけだったから。お父様はいつも忙しいし、私の相手をしてくれるのはお兄様だけだったわ」
「…………」
「だから、お兄様との時間を奪ったあんたのことが嫌いだった。それで、どこに行くにもついて行って、邪魔してやったのよ。あんたの困った顔を見るのは、本当に楽しくて、胸がスカッとしたわ。でも……」
「…………」
「そんな馬鹿なことをやってないで、あんたと普通に仲良くしてたら、こんなことにならなかったのかな……」
それは、誰にも分からないことだった。人生に『もしも』はあり得ないから。しかし私は、キャロルの言葉を無下に否定する気にはならず、小さく答えた。
「そうかもしれないわね……」
そして、キャロルは私から離れると、左手につけていた煌びやかなブレスレットを私に手渡した。それには大きな宝石がはまっており、太陽の光を受けてキラリと輝いた。
「大粒のエメラルドを大胆にあしらったゴールドブレスレットよ。宝石商に売ればまとまったお金になるわ。……それ、私が撃った子にあげてちょうだい」
「キャロル……」
「今さら良い子にはなれないけど、まあ、これくらいはね」
「良い子になるのは簡単じゃなくても、悪い子じゃなくなることはそう難しいことじゃないと思うわ」
キャロルは苦笑した。
「『良い子』と『悪い子じゃない子』って、どう違うの?」
それがキャロルと交わした最後の会話だった。
・
・
・
一ヶ月後、厳しい尋問の末、ウォード家に対する処罰が決定した。当主ラスールは王家への脱税、公金横領、公文書偽造、領民への暴行・拷問。領地境界線の侵犯。恣意的な侵略私争。王家への反逆。そして、右大臣ギブラと共謀し、大公様の嫡子を暗殺した罪で死罪。もちろん爵位と領地はすべて没収である。
「……なんで抱きしめるの?」
「わからない。でも、なんだかあなたがかわいそうで……」
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それは、誰にも分からないことだった。人生に『もしも』はあり得ないから。しかし私は、キャロルの言葉を無下に否定する気にはならず、小さく答えた。
「そうかもしれないわね……」
そして、キャロルは私から離れると、左手につけていた煌びやかなブレスレットを私に手渡した。それには大きな宝石がはまっており、太陽の光を受けてキラリと輝いた。
「大粒のエメラルドを大胆にあしらったゴールドブレスレットよ。宝石商に売ればまとまったお金になるわ。……それ、私が撃った子にあげてちょうだい」
「キャロル……」
「今さら良い子にはなれないけど、まあ、これくらいはね」
「良い子になるのは簡単じゃなくても、悪い子じゃなくなることはそう難しいことじゃないと思うわ」
キャロルは苦笑した。
「『良い子』と『悪い子じゃない子』って、どう違うの?」
それがキャロルと交わした最後の会話だった。
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一ヶ月後、厳しい尋問の末、ウォード家に対する処罰が決定した。当主ラスールは王家への脱税、公金横領、公文書偽造、領民への暴行・拷問。領地境界線の侵犯。恣意的な侵略私争。王家への反逆。そして、右大臣ギブラと共謀し、大公様の嫡子を暗殺した罪で死罪。もちろん爵位と領地はすべて没収である。
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