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第61話

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「そうよね、そうよね。でも、撃つか撃たないのか決めるのは私よ。私私。私が、すべての決定権を持ってるのよ。あぁ、いい気分だわ。汗だくでこんな草原を走り回って最悪の気分だったけど、やっといいことが起こったわね」

 些細な優越感により、自分が置かれている絶望的な状況が吹っ飛んだのか、キャロルは本当に幸せそうだった。浅慮もここまでくれば立派な才能である。

 私は、もう一度まったく同じ質問をした。

「私を撃つの?」

 そして、キャロルから返事が来る前に、さらに畳みかける。

「撃ってどうなるの? 今の自分の立場を考えてみなさい。私を撃てば、あなたはもう許されない。さらに状況が悪化するのよ」

 キャロルは爆笑した。

「きゃははははははははははははは! 許されないですって? 誰が? 誰が私を許さないの? 私はねぇ、何をしたって許されるのよ! みんなが許してくれるの! 世界が私を許すの! 私は特別な人間なのよ!」

 キャロルは銃の撃鉄を起こしながら語り続ける。

「乳母を蹴飛ばした時も許されたわ。悪戯で使用人を階段から突き落とした時も許されたわ。みんな、決まってこう言うの。『悪いのは私です、キャロルお嬢様ではありません』ってね! 世界も、みんなも、私の味方なのよ! 私は最高のお嬢様よ! 私だけは、何をしても許されるのよ! きゃははははははははははははは!」

「じゃあ、なんで逃げたの?」

 キャロルの馬鹿笑いがピタリと止まった。
 代わりに、私が話し続ける。

「本当はもうわかってるんでしょう? ウォード家はおしまいだって。もう『最高のお嬢様』じゃいられないって。それで、自暴自棄になってる」

「う……う……う……」

「もうやめましょう。今なら、あなたはまだ……」

「うるさいっ!」

 そして、キャロルは銃の引き金を引いた。……しかし、弾丸は発射されなかった。キャロルは驚愕の表情で何度も引き金を引くが、結果は同じだった。

「な……なんで? なんで弾が出ないの?」

「キャロル、銃は魔法の武器じゃないのよ。火薬を爆発させて弾を飛ばす『精密機械』だから、案外ちょっとしたことで思い通りにはいかなくなるの。特にその銃は、重量、反動共に、極端に軽くするために色々なものを犠牲にしてるから、水に濡れるとすぐ弾が出なくなるんですって。ハンスさんが言っていたわ」

「そんな……そんな……っ」

 私の言っていることが信じられないのか、信じたくないのか、カチカチと引き金を引き続けるキャロル。……本当に、どうしようもない子。恩着せがましいことを言う気はないけど、弾が出なくてあなたは救われたのよ?

 確かにあなたの罪は軽くはないけど、最悪の罪である『殺人』はまだ犯していない。それが今、私を撃って殺してしまったら、法的にも道義的にも決して許されることはなくなる。そうなれば、もうどこにも救いはない。誰も、あなたを救ってはくれない。どうしてわかってくれないの?
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