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第60話

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 キャロルは私たちから約20メートルほど離れた地点をもぞもぞと進んでいた。その動作は緩慢で、明らかな疲労が見て取れる。いくら運動神経が良くても、不慣れな悪路を必死に走って来たのだ。疲れていない方がおかしいだろう。これなら見失う心配はない。私たちは一度足を止め、相談することにした。

「これからどうしましょう? 追いつくのは簡単ですが、さっきも言った通りキャロルは短銃を持っています。普通ならもうどうしようもないと観念して抵抗などしないでしょうけど、あの子の短絡的性質を考えると、自暴自棄になって発砲してくる可能性が高いと思います」

「うーん……彼女を良く知るきみがそういうなら、そうなんだろうね。やれやれ、短絡的な人間というのは、始末に困るものだ。最悪の場合、僕の持つ銃で彼女を撃たなければならないな。正義を成すためとはいえ、少女を撃つのはつらいが……」

 私だって、ブライスに女の子を撃たせたりはしたくない。しばし考えて、私は思い切ったことを口にした。

「ブライスさん、私に任せてもらえませんか? きちんと向き合って、キャロルに今回の事の責任を取らせたいんです。それが、一時とはいえ彼女の義姉だった私の責任でもあると思うから……」

「クリスタ、きみの気持ちは本当に立派だと思うけど、彼女が銃を持っていることを考えると、賛同できない。きみの身に何かあったら僕は……」

「大丈夫、考えがあるんです。私を信じてはもらえませんか?」

「……わかったよ。でも、危険と判断したら僕はキャロルを撃つ。いいね?」

 私は頷き、進路を大きく変えながらキャロルに接近した。いつだったか、私は自分のことを『貴族の女性の中で、世界一この草原を早く駆け抜けることのできる女だと思う』と言った。その言葉通り、誰よりも早く、静かに回り込み、あっという間にキャロルの正面に姿を現した。

「ひいぃっ!?」

 本当に、突然草むらから飛び出してきた私に、キャロルは心底驚いたのだろう。慌てふためき、手に持っていた短銃を落としそうになる。この隙を待っていた。私は出発前に貰った水筒を開け、短銃に大量の水を浴びせかけた。

 びっしょり濡れた袖から先で短銃を握り締めながら、キャロルは憎悪に満ちた視線を私に投げかけてくる。

「ク、クリスタぁ……! 何すんのよ!」

 激しい怒りのままに、銃口を向けてくるキャロル。私は目をそらさず、厳格な声でキャロルに尋ねた。

「私を撃つの?」

 自分が優位に立っていることを自覚したのか、ニチャリと笑いながらキャロルは言う。

「んふ。どうしよっかなぁ? 撃たれるのは嫌?」

「そりゃ、自分から撃たれたいって人はいないんじゃない?」
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