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第58話

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 穏やかでありながら、時に鋭く細められるブライスの眼光に、結局は親頼みの傲慢さしか持ち合わせていないお坊ちゃまのエリックは竦みあがってしまう。その竦みあがったお坊ちゃまを、ブライスは静かに言葉で諭していった。

「きみは今、『愛して"やった"』と言ったな。そんな傲慢な感情が愛であるものか。それに『俺を叱ったのはクリスタだけ』とも言ったな。……わからないのか? 傲慢な振る舞いを諫めてくれる人が、どれだけありがたいものかを。クリスタ以外、誰も諫めてくれなかったから、きみはそんな人間になってしまったんだぞ?」

「うっ……くっ……うぅっ……」

「ウォード家は犯した罪が多すぎるから、間違いなく取り潰しになる。もっとも重たい『大公の嫡子暗殺』に関与した罪で、当主ラスールは確実に断頭台に送られるだろうが、暗殺には関与していないきみは恐らく、死罪だけは免れるだろう。だが、今回の騒動を引き起こした責任は大きい。だから厳罰は避けられない」

 大公の嫡子が暗殺されたのは20年以上前とのことなので、エリックは年齢的にその事件に関与していないということなのだろう。静かに、それでいて反論のしようもないほど厳格に断罪され、エリックはすすり泣きをしていた。

「ううぅぅぅ……」

「エリック、これからきみは辛い道を歩むことになる。だが命があれば、人は何度でも学びなおすことができる。きみは恵まれた家に生まれながら、不幸な育ち方をした。今回のことは、歪みきった人格を正すまたとない機会だ。きみが心を改め、まっとうに生きていくことを祈っているよ」

 エリックはもう、泣き声すら漏らさなかった。ブライスの言う通り、エリックは恵まれた有力貴族の家に生まれながら、叱られることすらない溺愛で根腐れした花のようなものだ。そう思うと、確かに不幸な育ちである。

 そういえば、もう一輪の花――キャロルはどうしたのだろう? ぐるりと見渡しても、捕縛された人たちの中にはいない。そうか。キャロルはどう見ても兵士ではないから、うまく立ち回って、拘束されずに逃げ出したのかもしれない。狙撃兵だって、一人逃げ出した少女に対し、たとえ威嚇でも発砲したりしないだろう。

 私は慌ててブライスにそのことを伝えた。

「ブライスさん、ウォード家の長女キャロルがいません。彼女はフォーリー領民の子供を銃で撃ち、この私争の戦端を開いた人物です。このまま逃がしてしまうわけにはいきません」

「なんだって。しかし、逃げたとしても、ウォード領にある自分の屋敷くらいしか戻る場所はないだろうし、そんなに慌てなくても……」

「いえ、彼女は女性でも扱える短銃を持っていますし、頭に血が上ると何をするか分からない性格です。野放しにしておくのは危険です」

「わかった。でも、いったいどこに逃げたんだろう。この辺りは草の背が高いから、小柄な女性が身をかがめて進めば、上手く姿を隠して移動することができる。困ったな、これは少し厄介だ」
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