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第54話
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「双方、即刻争いをやめよ! これはオルスタイン公爵の命令である! 繰り返す! 即刻争いをやめよ!」
その言葉で首をかしげたのはラスールだった。
「……オルスタイン公爵? オルスタイン大公の間違いではないのか? い、いや、だが、奴らの着ているあの白銀の甲冑。まさしくハワード・オルスタイン大公直属の騎兵隊のものだ。こ、こうなってはとりあえず、命令に従うしかない。ぐうぅっ」
ラスールは悔しげに唸ると、すべての兵に膝をつかせ、5騎の騎兵を受け入れた。太陽の光を受けて輝く美しい甲冑に身を包んだ5人は、さながら天の御使いのようであった。
「あっ……ああぁっ!?」
その5騎の先頭を行く黒髪の騎士を間近で確認した私は、再び歓声を漏らしてしまう。……恰好が違っていても、見間違うはずもない。それはあのブライスだったのだ。
ブライスは私を見て微笑すると、すぐにラスールに向き直り、これまで見たことのないような厳しい視線で、厳しい言葉を発した。
「お前がウォード家当主ラスールか」
「は、はぁ……」
ラスールの言葉はどうにもハッキリしない。大公の旗を翻してやって来たものの、目の前の若者が何者なのかイマイチ理解しきれず、どういう態度を取ればいいか分からないといった感じだ。そんなラスールに、ブライスはさらに厳しい言葉を投げかける。
「この状況はなんだ? どう見ても侵略戦争じゃないか。まさか、『地方領主同士の私争は厳禁である』という国法を知らないわけではないだろう?」
「いや、まぁ……。……あの、それよりも、あんた誰なんです?」
相手が息子ほどの年齢の若者だから侮っているのだろう、なんとも緊張感のない台詞だ。だがその言葉遣いに、ブライスの側に控えている、先程大声を発した騎士が激怒した。
「貴様っ! 口を慎め! このお方は、ハワード・オルスタイン大公様のご子息であらせられるブライス・オルスタイン公爵様だ! 貴様ごときが気安い口をきいていいお方ではない! だいたい、いつまで馬に跨っておる! 公爵様の御前であるぞ! 即刻下馬せよ!」
「えぇっ!?」
ラスールは困惑しながらも馬を降り、地面に片膝をついた。エリックも慌ててそれに倣ったが、キャロルだけはいまだに頭が現状を理解できないらしく、ぽかんと口を開けて、椅子に座ったままだった(椅子から降りろとは言われていないので、別に間違ってはいないのかもしれないが……)。
いきなり訪れた苦境に脂汗を浮かべながらも、ラスールはどうしても納得がいかないといった感じで、一人ぶつぶつと言葉を紡いでいく。
「し、しかし、大公に息子はいないはず……! いや、いるにはいたが体が弱く、20年以上前に病没した! これは間違いのないことだ! ワシは誰よりも詳しいんだ!」
その言葉で首をかしげたのはラスールだった。
「……オルスタイン公爵? オルスタイン大公の間違いではないのか? い、いや、だが、奴らの着ているあの白銀の甲冑。まさしくハワード・オルスタイン大公直属の騎兵隊のものだ。こ、こうなってはとりあえず、命令に従うしかない。ぐうぅっ」
ラスールは悔しげに唸ると、すべての兵に膝をつかせ、5騎の騎兵を受け入れた。太陽の光を受けて輝く美しい甲冑に身を包んだ5人は、さながら天の御使いのようであった。
「あっ……ああぁっ!?」
その5騎の先頭を行く黒髪の騎士を間近で確認した私は、再び歓声を漏らしてしまう。……恰好が違っていても、見間違うはずもない。それはあのブライスだったのだ。
ブライスは私を見て微笑すると、すぐにラスールに向き直り、これまで見たことのないような厳しい視線で、厳しい言葉を発した。
「お前がウォード家当主ラスールか」
「は、はぁ……」
ラスールの言葉はどうにもハッキリしない。大公の旗を翻してやって来たものの、目の前の若者が何者なのかイマイチ理解しきれず、どういう態度を取ればいいか分からないといった感じだ。そんなラスールに、ブライスはさらに厳しい言葉を投げかける。
「この状況はなんだ? どう見ても侵略戦争じゃないか。まさか、『地方領主同士の私争は厳禁である』という国法を知らないわけではないだろう?」
「いや、まぁ……。……あの、それよりも、あんた誰なんです?」
相手が息子ほどの年齢の若者だから侮っているのだろう、なんとも緊張感のない台詞だ。だがその言葉遣いに、ブライスの側に控えている、先程大声を発した騎士が激怒した。
「貴様っ! 口を慎め! このお方は、ハワード・オルスタイン大公様のご子息であらせられるブライス・オルスタイン公爵様だ! 貴様ごときが気安い口をきいていいお方ではない! だいたい、いつまで馬に跨っておる! 公爵様の御前であるぞ! 即刻下馬せよ!」
「えぇっ!?」
ラスールは困惑しながらも馬を降り、地面に片膝をついた。エリックも慌ててそれに倣ったが、キャロルだけはいまだに頭が現状を理解できないらしく、ぽかんと口を開けて、椅子に座ったままだった(椅子から降りろとは言われていないので、別に間違ってはいないのかもしれないが……)。
いきなり訪れた苦境に脂汗を浮かべながらも、ラスールはどうしても納得がいかないといった感じで、一人ぶつぶつと言葉を紡いでいく。
「し、しかし、大公に息子はいないはず……! いや、いるにはいたが体が弱く、20年以上前に病没した! これは間違いのないことだ! ワシは誰よりも詳しいんだ!」
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