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第46話(エリック視点)
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「父上、お忙しい中直々に出陣いただきまして、まことに痛み入ります」
ウォード軍を直接指揮するためにわざわざ出向いてくれた父上に対し、俺は深々と頭を下げた。父上は馬上にて、大きな口をさらに大きく開け、豪快に笑う。
「ふはは、可愛い息子よ。随分他人行儀な口をきくじゃないか」
「兵たちの前であまり甘えては笑われます」
「つまらんことを気にするな。お前はこのラスール・ウォードの息子。いつだって、どこでだって自由に振る舞って構わんのだ。ふはは、お前はワシのすべてよ。そのお前を笑う兵がいたら、すぐに殺してやる。何人いようと、まとめてな」
「嬉しいお言葉です」
「ふはははははは! んん~、さて、馬糞臭いフォーリーの連中はどれだけ集まっておるのかな? いち……にぃ……さん…………ほぉ、60名以上おるな。奴らの兵力は、予備役をかき集めても30名が限界だと思っていたが」
「それが、義勇兵が交ざっているようです。しかも、旧式とはいえ全員銃で武装しており、なかなかに厄介なのです」
「だが、指揮官がおらんだろう。フォーリー家当主のレスターは、馬の世話と喧嘩の仲裁くらいしかできん男だ。とてもではないが、60名を超える兵を動かすことなどできん。用兵術というのは、本を読んで少し勉強したくらいで身につくものではないからな」
「そ、それが……つい先日まで我々の側だったハンスが裏切り、奴らの指揮を執っているのです……」
「なんだと!? 奴は実直な男だ。それが寝返ったというのか!? 信じられん!」
「は、はい……。あの……実は……奴は俺とキャロルに無礼を働いたので、それで、クビにいたしました……。その後、すぐにフォーリー家についたようでして……」
「んん~ん、そうか。可愛いお前とキャロルの機嫌を損ねたなら、クビにして当然だ。待っていろ、奴も含めて、抵抗勢力は皆殺しだ。フォーリー領などさほど欲しくもないが、お前を侮った連中には罰を与えてやらんとな。息子よ、覚えておくがいい。貴族は面子だ。面子がすべてなのだ。舐めた真似をする奴は、決して許してはいかんのだ」
「ははーっ。さすが父上、素晴らしい教えです」
「ふははは!」
「しかし、不思議ですね。これだけ大きな争いになったのに、何故、国王陛下も大公様も介入してこられないのでしょうか」
「不思議でも何でもないぞ。ワシが手を回しておるからな」
「えっ?」
「ワシは右大臣のギブラ様と付き合いが深い。ギブラ様にお願いして、ウォード領の悪評は国王陛下の耳には入らんことになっておるのよ。大公のジジイも、昔は切れ者だったが最近は半分ボケてきていてな、昔の戦争で部下だったワシの言うことならなんでも聞く。ふはは、すべてにおいて抜かりはない!」
「ち、父上……なんと……」
「んん~? どうした?」
「なんと素晴らしい! 俺は今日ほど、あなたの息子であることを誇らしく思ったことはありません!」
「ふはははははは!」
ウォード軍を直接指揮するためにわざわざ出向いてくれた父上に対し、俺は深々と頭を下げた。父上は馬上にて、大きな口をさらに大きく開け、豪快に笑う。
「ふはは、可愛い息子よ。随分他人行儀な口をきくじゃないか」
「兵たちの前であまり甘えては笑われます」
「つまらんことを気にするな。お前はこのラスール・ウォードの息子。いつだって、どこでだって自由に振る舞って構わんのだ。ふはは、お前はワシのすべてよ。そのお前を笑う兵がいたら、すぐに殺してやる。何人いようと、まとめてな」
「嬉しいお言葉です」
「ふはははははは! んん~、さて、馬糞臭いフォーリーの連中はどれだけ集まっておるのかな? いち……にぃ……さん…………ほぉ、60名以上おるな。奴らの兵力は、予備役をかき集めても30名が限界だと思っていたが」
「それが、義勇兵が交ざっているようです。しかも、旧式とはいえ全員銃で武装しており、なかなかに厄介なのです」
「だが、指揮官がおらんだろう。フォーリー家当主のレスターは、馬の世話と喧嘩の仲裁くらいしかできん男だ。とてもではないが、60名を超える兵を動かすことなどできん。用兵術というのは、本を読んで少し勉強したくらいで身につくものではないからな」
「そ、それが……つい先日まで我々の側だったハンスが裏切り、奴らの指揮を執っているのです……」
「なんだと!? 奴は実直な男だ。それが寝返ったというのか!? 信じられん!」
「は、はい……。あの……実は……奴は俺とキャロルに無礼を働いたので、それで、クビにいたしました……。その後、すぐにフォーリー家についたようでして……」
「んん~ん、そうか。可愛いお前とキャロルの機嫌を損ねたなら、クビにして当然だ。待っていろ、奴も含めて、抵抗勢力は皆殺しだ。フォーリー領などさほど欲しくもないが、お前を侮った連中には罰を与えてやらんとな。息子よ、覚えておくがいい。貴族は面子だ。面子がすべてなのだ。舐めた真似をする奴は、決して許してはいかんのだ」
「ははーっ。さすが父上、素晴らしい教えです」
「ふははは!」
「しかし、不思議ですね。これだけ大きな争いになったのに、何故、国王陛下も大公様も介入してこられないのでしょうか」
「不思議でも何でもないぞ。ワシが手を回しておるからな」
「えっ?」
「ワシは右大臣のギブラ様と付き合いが深い。ギブラ様にお願いして、ウォード領の悪評は国王陛下の耳には入らんことになっておるのよ。大公のジジイも、昔は切れ者だったが最近は半分ボケてきていてな、昔の戦争で部下だったワシの言うことならなんでも聞く。ふはは、すべてにおいて抜かりはない!」
「ち、父上……なんと……」
「んん~? どうした?」
「なんと素晴らしい! 俺は今日ほど、あなたの息子であることを誇らしく思ったことはありません!」
「ふはははははは!」
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