43 / 68
第43話
しおりを挟む
「いえ、私は最後まで見届けます。それが当主代行の務めですから」
「そうですか。まあ、今日はそれほど激しい衝突にはならないと思いますが、それでも決して防塁より前には出ないでくださいね」
「わかりました」
フォーリー軍とウォード軍はしばし睨み合った後、午前11時に、互いの陣地から一歩も動くことなく何度か撃ちあい、昼の12時にはウォード軍は退却していった。
……え?
もしかして、撃退できたの?
こんな簡単に?
敵を退却させ、歓喜に沸くフォーリー軍の歓声を聞きながら、私は今思った通りのことをハンスに尋ねた。
「ハンスさん、もしかして私たち、勝ったんですか?」
「勝った……と言うか、ひとまず敵を退けることには成功しました。ウォード軍には、まるでやる気がありませんでしたからね」
「やる気がない? あんな大勢で攻めてきておいて?」
「ええ。ウォード軍は、決して心無い狂戦士なんかじゃありません。この争いの発端が、領主の馬鹿息子エリックの嫌がらせによるもので、フォーリー領の人々が激怒したのは、馬鹿娘キャロルが軽率で残虐なことをしたからだってわかってます。そんな状況でやる気になる方がおかしいですよ」
「なるほど……」
「それに、こちらが思った以上に大軍で、旧式とはいえ全員銃で武装し、正確な指揮のもとに反撃して来たから驚いたっていうのもあるでしょうね。だから、すぐに分かったんですよ。『まともにやり合えば、ウォード軍もそれなりの被害を受けることになる』と。で、指揮官の意見を伺いに帰って行ったというところでしょう」
「『指揮官の意見を伺いに』って……向こうの指揮を執ってるのはエリックでしょう?」
ハンスは首を左右に振った。
「彼はただのお飾りです。頭が空っぽなくせに直情的で、指揮官の才能はゼロ。だから、私が副団長として彼の代わりにウォード軍に指示を出していたんですよ。昨日までの話ですけどね」
「そう。ふふ、あなたがこちら側についているのを知って、ウォード軍はさぞビックリしたでしょうね。すぐに退却したのはそのせいもあると思うわ」
何にしても、すぐに戦いが終わってひとまずホッとする。しかしハンスは難しい顔で、すでにウォード軍がいなくなった領地の境界線を眺めていた。
「とりあえず今日の戦いは、互いに怪我人もなく終わりました。でも、明日はこうはいかないでしょう。ウォード家にも面子がありますし、きっと当主のラスールが直々に指揮を執るはずです。そうなれば、ウォード軍も『やる気がでない』なんて言っていられません」
「…………」
「フォーリー軍の士気は高く、そう簡単にはやられないでしょうが、相当の死傷者がでることは間違いない。争いを穏便に収める最高の方法は、国王陛下か大公様に仲裁をしてもらうことです。昨日のうちに、手紙を送ったのでしょう? そろそろ返事が来てもおかしくない頃合いだと思いますが……」
「そうですか。まあ、今日はそれほど激しい衝突にはならないと思いますが、それでも決して防塁より前には出ないでくださいね」
「わかりました」
フォーリー軍とウォード軍はしばし睨み合った後、午前11時に、互いの陣地から一歩も動くことなく何度か撃ちあい、昼の12時にはウォード軍は退却していった。
……え?
もしかして、撃退できたの?
こんな簡単に?
敵を退却させ、歓喜に沸くフォーリー軍の歓声を聞きながら、私は今思った通りのことをハンスに尋ねた。
「ハンスさん、もしかして私たち、勝ったんですか?」
「勝った……と言うか、ひとまず敵を退けることには成功しました。ウォード軍には、まるでやる気がありませんでしたからね」
「やる気がない? あんな大勢で攻めてきておいて?」
「ええ。ウォード軍は、決して心無い狂戦士なんかじゃありません。この争いの発端が、領主の馬鹿息子エリックの嫌がらせによるもので、フォーリー領の人々が激怒したのは、馬鹿娘キャロルが軽率で残虐なことをしたからだってわかってます。そんな状況でやる気になる方がおかしいですよ」
「なるほど……」
「それに、こちらが思った以上に大軍で、旧式とはいえ全員銃で武装し、正確な指揮のもとに反撃して来たから驚いたっていうのもあるでしょうね。だから、すぐに分かったんですよ。『まともにやり合えば、ウォード軍もそれなりの被害を受けることになる』と。で、指揮官の意見を伺いに帰って行ったというところでしょう」
「『指揮官の意見を伺いに』って……向こうの指揮を執ってるのはエリックでしょう?」
ハンスは首を左右に振った。
「彼はただのお飾りです。頭が空っぽなくせに直情的で、指揮官の才能はゼロ。だから、私が副団長として彼の代わりにウォード軍に指示を出していたんですよ。昨日までの話ですけどね」
「そう。ふふ、あなたがこちら側についているのを知って、ウォード軍はさぞビックリしたでしょうね。すぐに退却したのはそのせいもあると思うわ」
何にしても、すぐに戦いが終わってひとまずホッとする。しかしハンスは難しい顔で、すでにウォード軍がいなくなった領地の境界線を眺めていた。
「とりあえず今日の戦いは、互いに怪我人もなく終わりました。でも、明日はこうはいかないでしょう。ウォード家にも面子がありますし、きっと当主のラスールが直々に指揮を執るはずです。そうなれば、ウォード軍も『やる気がでない』なんて言っていられません」
「…………」
「フォーリー軍の士気は高く、そう簡単にはやられないでしょうが、相当の死傷者がでることは間違いない。争いを穏便に収める最高の方法は、国王陛下か大公様に仲裁をしてもらうことです。昨日のうちに、手紙を送ったのでしょう? そろそろ返事が来てもおかしくない頃合いだと思いますが……」
47
お気に入りに追加
1,793
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる