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第43話

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「いえ、私は最後まで見届けます。それが当主代行の務めですから」

「そうですか。まあ、今日はそれほど激しい衝突にはならないと思いますが、それでも決して防塁より前には出ないでくださいね」

「わかりました」

 フォーリー軍とウォード軍はしばし睨み合った後、午前11時に、互いの陣地から一歩も動くことなく何度か撃ちあい、昼の12時にはウォード軍は退却していった。

 ……え?

 もしかして、撃退できたの?

 こんな簡単に?

 敵を退却させ、歓喜に沸くフォーリー軍の歓声を聞きながら、私は今思った通りのことをハンスに尋ねた。

「ハンスさん、もしかして私たち、勝ったんですか?」

「勝った……と言うか、ひとまず敵を退けることには成功しました。ウォード軍には、まるでやる気がありませんでしたからね」

「やる気がない? あんな大勢で攻めてきておいて?」

「ええ。ウォード軍は、決して心無い狂戦士なんかじゃありません。この争いの発端が、領主の馬鹿息子エリックの嫌がらせによるもので、フォーリー領の人々が激怒したのは、馬鹿娘キャロルが軽率で残虐なことをしたからだってわかってます。そんな状況でやる気になる方がおかしいですよ」

「なるほど……」

「それに、こちらが思った以上に大軍で、旧式とはいえ全員銃で武装し、正確な指揮のもとに反撃して来たから驚いたっていうのもあるでしょうね。だから、すぐに分かったんですよ。『まともにやり合えば、ウォード軍もそれなりの被害を受けることになる』と。で、指揮官の意見を伺いに帰って行ったというところでしょう」

「『指揮官の意見を伺いに』って……向こうの指揮を執ってるのはエリックでしょう?」

 ハンスは首を左右に振った。

「彼はただのお飾りです。頭が空っぽなくせに直情的で、指揮官の才能はゼロ。だから、私が副団長として彼の代わりにウォード軍に指示を出していたんですよ。昨日までの話ですけどね」

「そう。ふふ、あなたがこちら側についているのを知って、ウォード軍はさぞビックリしたでしょうね。すぐに退却したのはそのせいもあると思うわ」

 何にしても、すぐに戦いが終わってひとまずホッとする。しかしハンスは難しい顔で、すでにウォード軍がいなくなった領地の境界線を眺めていた。

「とりあえず今日の戦いは、互いに怪我人もなく終わりました。でも、明日はこうはいかないでしょう。ウォード家にも面子がありますし、きっと当主のラスールが直々に指揮を執るはずです。そうなれば、ウォード軍も『やる気がでない』なんて言っていられません」

「…………」

「フォーリー軍の士気は高く、そう簡単にはやられないでしょうが、相当の死傷者がでることは間違いない。争いを穏便に収める最高の方法は、国王陛下か大公様に仲裁をしてもらうことです。昨日のうちに、手紙を送ったのでしょう? そろそろ返事が来てもおかしくない頃合いだと思いますが……」
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