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第41話

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 その間に、私は思った通りのことをハンスに尋ねることにした。

「ハンスさん。あなたは何故、そのことを伝えに来たのですか?」

「あなたは?」

「私はフォーリー家当主の長女クリスタです。以後お見知りおきを」

「これは、フォーリー家のお嬢様でしたか。失礼いたしました。……では、質問にお答えします。そうですね。平たく言えば、罪滅ぼしのためでしょうか」

「罪滅ぼし?」

「私は昔傭兵をしていて、その後、放浪生活の果てにウォード家に拾ってもらいました。で、忠誠を誓ったわけですが、今回のフォーリー家に対する仕打ちは賛同しがたいものでした。だって、どう考えてもただの嫌がらせですからね。それでもウォード家には拾ってもらった恩がありますし、兵士として命令には従うべきと思っていました」

「…………」

「しかし、当主のワガママ娘を諫めたことがきっかけで、一瞬にしてクビです。……正直言って、スッキリしましたよ。これでもう、くだらない嫌がらせに加担しなくて済みますからね。で、スッキリしたら今度は、後ろめたい気持ちが湧いてきました。何の罪もないフォーリー領の人々を苦しめたわけですから。だから、これ以上の被害が出ないようにしたかったんです」

「そうですか。あなたのその気持ち、嬉しく思いますよ。ありがとうございます」

 私は深々と頭を下げた。

「やめてください、お嬢様。主の命令だったとはいえ、私はフォーリー領への嫌がらせに加担した一人です。今だって『明日総攻撃が始まる』っていう残酷なニュースを伝えに来ただけだ。とても、あなたに頭を下げてもらう価値のある人間じゃありませんよ」

 私は頭を上げながら、ニッコリと微笑んだ。

「では、頭を下げてもらう価値のある人間になってもらえませんか?」

「えっ?」

「率直に言って現在、我がフォーリー家にはウォード家に対抗する手段がありません。周囲に味方はおらず、総攻撃が明日と言うのならば、たとえ大公様や国王陛下が仲裁してくれるとしても間に合わないでしょう。……こうなればこちらも私兵を集め、なんとかして領民を守らねばなりません」

「…………」

「しかし、我がフォーリー家の私兵はそのほとんどが予備役のようなもので、実戦経験豊富な兵士は皆無です。ですから、『何か対策を講じた方がいい』と言われても、対策のしようがないんです。せめて、傭兵として戦ってきた優れた兵士がいれば、話が少しは変わって来ると思うのですが」

「…………」

「ハンスさん。無理を承知でお願いします。罪滅ぼしがしたいというのなら、今度はフォーリー家についてウォード家と戦ってくれませんか? このまま総攻撃の事実だけを伝えて去ってしまっては、死刑の宣告をするのと大して変わりません。それでは結局、何の罪も滅びはしないでしょう」

 我ながら挑戦的な物言いだ。しかしこうでも言わないと、ハンスを引き留めることはできないだろう。今までの会話から察するに、彼は道理の分かる人間のようだし、その良心に期待するしかない。
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