妹ばかりを優先する無神経な婚約者にはもううんざりです。お別れしましょう、永久に。【完結】

小平ニコ

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第37話(キャロル視点)

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 なんなの?
 こいつ、何を言ってるの?

 お兄様も困惑していたが、すぐに侮辱されていると判断し、顔を赤くして激昂する。そうよお兄様。こんな奴に言いたい放題にされないで!

「貴様……! たかが雇われ兵士の分際で、この俺に意見し、キャロルまで侮辱するつもりか!」

「"元"雇われ兵士ですけどね。たった今クビになったので」

「黙れ! このことは父上に報告させてもらう! 父上は俺の言うことなら何でも聞いてくれるんだ! ウォード家の息がかかった地域では、二度と働けないと思っておくことだな!」

 しかし、ハンスは少しもひるまなかった。それどころか奴の目には、どこか憐みの色すらある。……私はこの目を知っている。クリスタだ。クリスタも時々、こんな目で私を見ていた。

「エリックぼっちゃん。あなたがそんなふうになったのも、きっとお父上のラスール様のせいなのでしょう。どんな人間も、叱られずに育てば馬鹿になる。あなたたちは、かわいそうな兄妹だ。本心から哀れに思いますよ」





 そして、ハンスは去っていた。

 なんなの。
 なんなの。
 なんなのあいつ!

 私とお兄様がかわいそうですって!?
 かわいそうなのはクビになったあんたの方でしょ!?

 それが何よ!
 あの余裕ぶった態度!

 気に入らない!
 気に入らない!
 気に入らない!

 私は短銃を抜いた。
 鳥かウサギでも撃って、憂さを晴らしてやる。

 そう思って獲物を探していた時、足元に飛んでくるものがあった。

 石だ。

「ひっ」

 それほどの勢いではなかったが、思わず悲鳴が漏れる。あ、危ないじゃない。こんなもの当たったら怪我しちゃうわ。石が飛んできた方向を見やると、そこには子供がいた。恐らく、フォーリー領の農民の子供だろう。

 子供は明らかな敵意を込めた瞳で叫んだ。

「何日も何日もいい加減にしろ! お前たちのせいで放牧することもできない! とっととフォーリー領から出て行け!」

 そしてもう一度、小さな石を投げてきた。激しい言葉の割に、ふんわりとした優しい投擲だった。間違っても私の体に当ててしまわないように加減しているのだろう。石は先程とほとんど同じ位置にぽとりと落ちる。

 ……『当ててしまわないように加減している』ですって?

 それがどうしたって言うのよ。カスのフォーリー領でやっとこ生きてるカス農民のカス子供が、この私に石を投げたのよ。それだけで、重大な罪だわ。

 私は獲物を探すのをやめた。

 もうそれどころじゃない。

 罪人に罰を与えなければ。

 短銃を構える。

 子供が怯んだ。

 ばーか。

 もう遅いのよ。

 誰を怒らせたのか。

 せいぜい後悔しなさい。

 パンッ。



――――――――――――――――――――――――――



 次回から再びクリスタの視点に戻ります。
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