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第35話(キャロル視点)

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「やーよ。取り巻きはたくさんいるけど、あいつら卑屈な顔して私のご機嫌をうかがってばかりで、一緒にいてもつまんないんだもん」

「はぁ、そうですか」

 ……何よこいつ。

 なんて目で私を見るの?

 真面目そうな表情で隠してるけど、目はごまかせない。
 これは、あつかいの面倒な粗大ごみを見る目。

 私の取り巻きもそうだ。惨めなほど卑屈な顔をして、犬みたいに尻尾を振って私に媚びを売るくせに、あいつらもこんな目で私を見てくる。

 やめなさいよ。

 そんな目で見るな。

 イラつく。
 イラつく。
 イラつく。

 こいつも、あのクリスタみたいにイラつくわ。

 この世の誰だろうと、私をそんな目で見ることは許さない。……ええっと、こいつ、名前なんて言ったっけ? 駄目だわ、思い出せない。どっかの傭兵上がりのしょーもない男で、豊富な実戦経験を買ってお父様が雇ってやったっていうのは覚えてるんだけど、名前がどうしてもでてこないわ。

 まあ、いっか。
 こんなのの名前、覚えても仕方ないしね。

 私はパンパンと手を叩き、歌うように声を張り上げる。

「お兄様ぁ~、ちょっと来てぇ~♪」

 すると、お兄様がたちまち飛んで来る。
 世界で一番大切な私のために、世界で一番の速さで飛んで来る。

 これこれこれこれ。
 これが好きなの。

 そうよ、私は世界一のお嬢様。
 だから、世界一大事にされなきゃね。

 お兄様は、満面の笑みで問う。

「キャロル、どうしたんだい? 喉が渇いたのかな? それなら、すぐに……」

「ううん、お兄様。喉なら大丈夫。それよりこの男、名前なんて言ったっけ?」

 私に意見してきた生意気な兵士を指さし、私は尋ねた。

「ハンスがどうかしたか?」

 ああ。
 そうそう。

 ハンスだったわ。
 つっまんない名前。

「このハンスがね、私に生意気なことをほざくのよ。だからクビにしてちょうだい」

 お兄様とハンスが、ほとんど同時に「えっ」と声を上げた。それから二人とも黙ってしまう。……ちょっとちょっと、どうしたのよ、お兄様。いつもならノータイムで『わかったよ。可愛いキャロルの頼みなら』って言ってくれるのに。

 私は誰の目にも明らかなほどに憤慨し、不満そのものの顔をお兄様に向けた。すると、それだけでお兄様は慌ててしまう。これこれこれこれこれ。これが好きなの。さあ、世界一のお嬢様が怒ってるのよ。早く思い通りにしてちょうだい。
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