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第29話

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 楽しい相手が来るのを待つ時間は、とても幸せなもの――

 本当にその通りだ。嫌なことばかりのこの一週間、それでも明るい気持ちを捨てずにいられたのは、またブライスに会えると思えたからだ。好きな相手との再会を待つ時間は、本当に幸せで、心の暗闇を優しく、そして力強く照らすエネルギーに満ちている。私は満面の笑みを浮かべ、小さく頷いた。

「さて、と。クリスタ。今日はきみにお礼を持ってくる約束だったけど、この前の帰り道、少し考えて思ったんだ。『お礼』っていうのは、送った相手が喜ぶものじゃないと意味がないだろう? だから、こちらが一方的に選んだ結果、きみにとって興味がないものを送ってしまったら大変だからね。何が欲しいか、聞かせてもらえないかな」

 私はほとんど逡巡せずに答えた。

「ブライスさん、私、お礼なんていらないんです。あなたを助けたのは、人として当然のことをしただけですし、それに……」

 お礼なら、これまであなたと過ごした時間と、あなたからかけてもらった言葉で十分です。……と、さすがにここまで言ってしまうのは恥ずかしくて、私は少々顔を赤くして黙ってしまった。

 ブライスは、ちょっぴり困ったような顔で微笑む。

「なんとなく、きみならそう言うと思ってたよ。……でも、困ったな。このままじゃ、これ以上きみと会う口実が無くなってしまう」

「えっ?」

「本当ならね、先週馬を返し、ノームを引き取りに来た時にお礼を持ってくるのが当然なんだ。そしてお礼と言えば、誰にとっても有用なものであるお金を選ぶのが常識。でも僕は、わざとお礼を持ってこずに、今回もきみにお礼を選ばせるようなことを言って、話を引き延ばしている。……どうしてだと思う?」

「どうしてと言われましても……」

 お金がないというわけでもないでしょうし……

 いや、たとえお金を持って来られても、とてもじゃないけど受け取るわけにはいかない。少なくとも、そこまでしてもらうほどのことをしたつもりはない。さっきも言ったけど、人として当然のことをしただけだもの。

 おっと、疑問を元に戻そう。

 どうしてお礼の話を引き延ばすのか……だったわね。

 どうして……

 どうしてだろう……?

 うーん……

 腕を組んで頭を捻り、うんうん唸って考え込んでしまった私に、ブライスは美しい瞳を細め、限りなく優しい視線を注ぎながら言う。

「何度でもきみに会いたいからだよ。たった数回会っただけの男にこんなことを言われると、もしかしたら不気味に感じるかもしれない。でも僕は、そのたった数回のやり取りで、完全にきみの虜になってしまったんだ」

「え、えぇっ……?」
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