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第28話
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「でも、過去がどうあれ、今ウォード家がやっていることは決して許されることではありません。お父様、諦めないでください。一度で駄目なら、何度でも直訴しましょう。手紙で気持ちと事実が伝わらないのなら、実際に足を運んで陳情しましょう。そうすれば、きっと理解してもらえますよ」
「そうか……そうだな……。しかし、実際に陳情するのはやめた方が良いだろう。大公様と国王陛下はお忙しい。いきなり押しかけて面会を望めば、逆に心証を悪くしかねんからな。とにかく、もう一度手紙を書いてみるよ。今度は、より事態が切迫していることをしっかり主張せねばな」
・
・
・
お父様はその日のうちに再び直訴の手紙を出したが、返事はなかなか来なかった。ただ待つ時間というものは長く、苦しいもので、その間もウォード家はますます調子に乗り越境行為を繰り返す始末。私の気持ちもふさぎこみがちになるが、毎日空だけは快晴だった。
そうこうするうちに、以前ブライスと会ってから一週間が経ち、私は例の草原に向かった。最近は本当に嫌なことばかりで、足を動かす気力すら落ちていたのに、またブライスに会えると思うと、重たかった足が驚くほど軽い。
この前は彼の方が先に待ち合わせ場所に来て、結果的に少し待たせる形になってしまったので、今日こそは私が先に到着しておこうと思い、朝の8時にお屋敷を出て、足早に目的地を目指す。
坂道を駆け足で登っていくので、自然と息が上がるが、それは心地よい疲労だった。誰か、会いたい人がいるというのはなんて幸せなことだろう。会いたい人のために疲れるということも、なんて幸せなことだろう。
そこで私は、ブライスに対する思いが単なる好感や好意の類ではないと気がついた。……どうやら、たった二回あっただけの彼に対し、私は完全に恋心を抱いてしまっているらしい。
苦しい状況でも、人を好きになれるということは大きな救いだ。苦しい状況で、人を憎んでばかりいると、心はもっと深い暗黒に落ちてしまうだろうから。
そんなことを考えているうちに、待ち合わせ場所に到着する。……なんと、今回もブライスの方が先に来て、私を待っていた。彼がどこからやって来ているのかはわからないが、少なくとも私より近くに住んでいるはずがない。いったい、どれだけ早い時間に出発したのだろう。
大急ぎでやって来たために弾む息を整え、私は微笑してブライスに言う。
「今日こそは先に来ていようと思ったのに、また負けちゃいました」
ブライスも微笑し、冗談めかして言う。
「きみに花を持たせるべきかとも思ったんだけど、こうして早く来て、きみのことを待っていたくてね。楽しい相手が来るのを待つ時間は、とても幸せなものだからね」
「そうか……そうだな……。しかし、実際に陳情するのはやめた方が良いだろう。大公様と国王陛下はお忙しい。いきなり押しかけて面会を望めば、逆に心証を悪くしかねんからな。とにかく、もう一度手紙を書いてみるよ。今度は、より事態が切迫していることをしっかり主張せねばな」
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お父様はその日のうちに再び直訴の手紙を出したが、返事はなかなか来なかった。ただ待つ時間というものは長く、苦しいもので、その間もウォード家はますます調子に乗り越境行為を繰り返す始末。私の気持ちもふさぎこみがちになるが、毎日空だけは快晴だった。
そうこうするうちに、以前ブライスと会ってから一週間が経ち、私は例の草原に向かった。最近は本当に嫌なことばかりで、足を動かす気力すら落ちていたのに、またブライスに会えると思うと、重たかった足が驚くほど軽い。
この前は彼の方が先に待ち合わせ場所に来て、結果的に少し待たせる形になってしまったので、今日こそは私が先に到着しておこうと思い、朝の8時にお屋敷を出て、足早に目的地を目指す。
坂道を駆け足で登っていくので、自然と息が上がるが、それは心地よい疲労だった。誰か、会いたい人がいるというのはなんて幸せなことだろう。会いたい人のために疲れるということも、なんて幸せなことだろう。
そこで私は、ブライスに対する思いが単なる好感や好意の類ではないと気がついた。……どうやら、たった二回あっただけの彼に対し、私は完全に恋心を抱いてしまっているらしい。
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そんなことを考えているうちに、待ち合わせ場所に到着する。……なんと、今回もブライスの方が先に来て、私を待っていた。彼がどこからやって来ているのかはわからないが、少なくとも私より近くに住んでいるはずがない。いったい、どれだけ早い時間に出発したのだろう。
大急ぎでやって来たために弾む息を整え、私は微笑してブライスに言う。
「今日こそは先に来ていようと思ったのに、また負けちゃいました」
ブライスも微笑し、冗談めかして言う。
「きみに花を持たせるべきかとも思ったんだけど、こうして早く来て、きみのことを待っていたくてね。楽しい相手が来るのを待つ時間は、とても幸せなものだからね」
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