妹ばかりを優先する無神経な婚約者にはもううんざりです。お別れしましょう、永久に。【完結】

小平ニコ

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第23話

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 その予備役的な存在を全員招集したとしても、恐らくは30人が限界だろう。おまけに、武器はそれほど手入れをしていない旧式の銃がメインだ。数だけはそこそこあるが、最新の銃器や大砲で日々訓練を重ねているウォード家の私兵団に対抗できるとは、とても思えなかった。

 では、他の貴族に助けを求めるか?

 それも無理な話だ。この辺り一帯の最大有力者であるウォード家と事を構えてまで、フォーリー家を助けてくれる者などいないだろう。温厚なお父様は、他の貴族とも良い関係を築いていたが、ささやかな『良い関係』など、ウォード家と対立するという『実害』に比べれば、吹けば飛ぶ綿毛のようなものである。

 苦悶の表情を浮かべるお父様に対し、エリックは事も無げに言う。

「ふふふふ。そんなに深刻な顔をしないでくださいよ。訓練は二時間ほどで終わります。たった二時間ですよ? あなたも地方領主なら、この程度のことでおたおたせず、どんと構えていなさい。終わったら速やかに兵を引きますから、ビクビク怯えないでください、見苦しいですよ」

 一応敬語ではあるが、完全に格下の相手を侮り辱める発言だった。……何が『この程度のこと』なのか。軍隊に二時間も領内侵犯をされて、抗議もせずにどんと構えているだけののんきな領主がこの世のどこにいるのか。

 激しい屈辱と怒りで、お父様は理性を保つのが難しかっただろうが、二時間我慢すれば事態が収まるという言質を得たことで、とりあえずここは矛を収めることにしたらしい。最後にエリックに対して、険しい顔で釘を刺す。

「……わかった。二時間だけ我慢しよう。しかし、翌日以降もこのようなことを続けるのならば、こちらにも考えがある。なるべく大ごとにはしたくないが、地方領主の監督者である大公様――ひいては、国王陛下に対しても、ウォード家の傍若無人ぶりを訴えさせてもらうから、そのつもりでな」

「ええ、どうぞどうぞ。お好きになさってください」

「エリック」

「なんです?」

「きみのように嫌な男が義理の息子にならなくて、心から良かったと思っているよ。速やかに婚約を破棄してくれたクリスタに改めて礼を言わんとな」

「ふん」

 そして、とりあえずその日の騒動は収まった。しかし陰湿なエリックとウォード家が、たったあれだけのことで私とフォーリー家に対する嫌がらせをやめるとは思えず、私たちはしばらく、暗い気持ちで日々を過ごしたのだった。





 今日は、ブライスから名馬ノームを預かってちょうど一週間後だ。私はノームの手綱を引き、例の穴だらけの草原に向かった。ウォード家との対立により心はいまだ暗かったか、空は雲ひとつない見事な快晴だった。
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