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第21話
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「ウォード家当主ラスールによる、フォーリー家当主レスターに対する発言の撤回を要求します。あれは名家であるウォード家としても恥ずべき発言。撤回してこそ、ウォード家の誇りも守られるはずです。エリック。あなたも誇り高き貴族なら、このことをお父様に伝えてください」
エリックは、その私の勇気と誇りを嗤った。
「お前、本当に馬鹿なんだな。お忙しい父上に、そんなくだらないことを伝えるはずないだろう。だいたい、地方領主の会議の場でフォーリー家の当主を侮辱するように頼んだのはこの俺だ。父上は俺のお願いを何でも聞いてくれるからな」
「なんですって……エリック、あなた……」
「父上自身はカス同然のフォーリー家になんて、大して興味がないんだよ。父上にとってはお前たちなど、蹴飛ばす価値もない雑魚さ。いや、雑馬と言うべきかな、ふふふ」
まさか、ここまで卑劣な男だとは思わなかった。悔しさ、怒り、嫌悪感、色んな負の感情が混ざり合い、手足から血の気が引いていく。きっと今の私は、顔だって相当に青ざめているのだろう。
それを見て、エリックは私が怯えていると勘違いしたのか、優越感に満ちた顔で、ペラペラと聞くに堪えないことを語り続けた。
「なかなか良い顔するじゃないか。馬鹿なお前の取り柄は顔くらいだ。その整った顔で微笑を浮かべ、ずっと俺の側にいればよかったものを」
「…………」
「それなのに、分をわきまえずああだのこうだの。馬鹿は戯言を吐かずに黙っていればいいんだ。何故それが分からない? ああ、当然か。馬鹿なんだからな。……だが、たとえ馬鹿が相手でも、俺を侮った相手は決して許さない」
もう十分だった。
私はエリックに背を向けた。
これ以上彼の下劣な言葉に付き合う意味はない。
ドアを開け、出て行こうとする私に、エリックはなおも卑劣な言葉を投げかけ続けた。
「そういえば、さっきから何度も誇り誇りと喚いていたな。勘違いも甚だしい。誇りを持つのが許されるのはウォード家のような名家だけだ、カスの馬糞貴族であるフォーリー家に誇りなどという立派な概念があるものか。身の程を知れ」
嘘でしょ。
私はとっくに応接室を出て、馬に跨って帰ろうとしているのに、ずっと後ろをついて来て、まだネチネチと何かを言っている。……馬の後ろに立っていると危ないって知らないのかしら? 教えてあげる義理はもうないけど、こんな男を蹴飛ばして、うちの馬の足が穢れるのも嫌なので一応警告することにした。
「エリック。馬の後ろに立ってると危ないわよ」
しかし、エリックは完全に自分の世界に入っており、ウォード家の優位性とフォーリー家の力のなさを滔々と語り続けている。それが耳障りだったのか、誰が命じたわけでもないのに、馬は後ろ蹴りをした。
エリックは、その私の勇気と誇りを嗤った。
「お前、本当に馬鹿なんだな。お忙しい父上に、そんなくだらないことを伝えるはずないだろう。だいたい、地方領主の会議の場でフォーリー家の当主を侮辱するように頼んだのはこの俺だ。父上は俺のお願いを何でも聞いてくれるからな」
「なんですって……エリック、あなた……」
「父上自身はカス同然のフォーリー家になんて、大して興味がないんだよ。父上にとってはお前たちなど、蹴飛ばす価値もない雑魚さ。いや、雑馬と言うべきかな、ふふふ」
まさか、ここまで卑劣な男だとは思わなかった。悔しさ、怒り、嫌悪感、色んな負の感情が混ざり合い、手足から血の気が引いていく。きっと今の私は、顔だって相当に青ざめているのだろう。
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「なかなか良い顔するじゃないか。馬鹿なお前の取り柄は顔くらいだ。その整った顔で微笑を浮かべ、ずっと俺の側にいればよかったものを」
「…………」
「それなのに、分をわきまえずああだのこうだの。馬鹿は戯言を吐かずに黙っていればいいんだ。何故それが分からない? ああ、当然か。馬鹿なんだからな。……だが、たとえ馬鹿が相手でも、俺を侮った相手は決して許さない」
もう十分だった。
私はエリックに背を向けた。
これ以上彼の下劣な言葉に付き合う意味はない。
ドアを開け、出て行こうとする私に、エリックはなおも卑劣な言葉を投げかけ続けた。
「そういえば、さっきから何度も誇り誇りと喚いていたな。勘違いも甚だしい。誇りを持つのが許されるのはウォード家のような名家だけだ、カスの馬糞貴族であるフォーリー家に誇りなどという立派な概念があるものか。身の程を知れ」
嘘でしょ。
私はとっくに応接室を出て、馬に跨って帰ろうとしているのに、ずっと後ろをついて来て、まだネチネチと何かを言っている。……馬の後ろに立っていると危ないって知らないのかしら? 教えてあげる義理はもうないけど、こんな男を蹴飛ばして、うちの馬の足が穢れるのも嫌なので一応警告することにした。
「エリック。馬の後ろに立ってると危ないわよ」
しかし、エリックは完全に自分の世界に入っており、ウォード家の優位性とフォーリー家の力のなさを滔々と語り続けている。それが耳障りだったのか、誰が命じたわけでもないのに、馬は後ろ蹴りをした。
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