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第18話
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「あまりの侮辱に周囲の貴族たちも眉をひそめたが、それでもワシを庇う者はいなかった。皆、ラスールを恐れているのだ。奴は、我々地方領主の中でも指折りの実力者であるし、大公様との関係も深いからな。正面切って戦うことのできるものなどいない……」
「…………」
「それでもワシは出来得る限りの反論をしたが、大公様はラスールの言葉を真に受け、『今後の軍馬の調練については一考する必要があると国王陛下に進言する』と述べられたのだ……うっ……うぐっ……」
お父様の声は、もはや苦悶の呻き声に近かった。
「ワ、ワシは悔しい……! 皆の前で娘を侮辱された挙句、フォーリー家の誇りである軍馬調練まで貶められるなんて……! クリスタ、お前は賢く心の強い娘だし、ワシの育てた軍馬たちは皆、この国で最高の馬だ……! それが、あんな下劣な男に好き放題に言われて、ワシは……ワシは……!」
「お父様……」
それは、私にとっても許しがたい侮辱だった。……私のことはいい。くだらない人たちに何を言われようと、そんなのは大したことじゃない。でも、フォーリー家の誇りであり、お父様の誇りである軍馬調練にデタラメな言いがかりをつけ、大公様からの信頼まで奪ったのは許せない。
もはや夕食を続けられる精神状態ではなかった。今の私は、世界で最高の美食を口に入れたとしても、何の味も感じないだろう。それほどに私は怒っていた。出かける支度を整えると馬屋に行き、フォーリー家で最も足の速い馬に跨り、お屋敷を飛び出した。
幸い……と言っていいのだろうか。今夜は満月で、視界は十分に明るい。これなら問題なく馬を駆けさせることができる。目指すのは、駿馬に乗ればそう遠くない距離にあるウォード家の屋敷だった。
行ってどうする?
当主であるラスールに直接抗議をするの? ……そんなことをしても、小娘の戯言と笑われるだけだ。そもそも、エリックとの婚約を破棄した私に不快感を抱いているだろうし、会ってすらくれない可能性が高い。
それでも、行かずにはいられなかった。
感情と行動力が、理性を凌駕していた。
お父様と同じく、私も悔しくて悔しくてたまらなかったのだ。力強く地面を蹴る蹄の音以上に、自分自身が奥歯を噛みしめるきしんだ音が、脳裏に響くようだった。
・
・
・
フォーリー家が手塩にかけて育てた駿馬のスピードは見事なもので、完全に夜が更けてしまう前にウォード家の正門に到着することができた。それでも夜は夜。普通なら、約束のない相手とは面会しない時間である。
しかしこれでも私は、ほんの少し前までは、このウォード家の長男エリックの婚約者だった女だ。門番の青年は私のことを当然覚えており、「クリスタ様の訪問をエリック様にお知らせしますので、少々お待ちください」と言って、急いで屋敷の中に入っていった。
「…………」
「それでもワシは出来得る限りの反論をしたが、大公様はラスールの言葉を真に受け、『今後の軍馬の調練については一考する必要があると国王陛下に進言する』と述べられたのだ……うっ……うぐっ……」
お父様の声は、もはや苦悶の呻き声に近かった。
「ワ、ワシは悔しい……! 皆の前で娘を侮辱された挙句、フォーリー家の誇りである軍馬調練まで貶められるなんて……! クリスタ、お前は賢く心の強い娘だし、ワシの育てた軍馬たちは皆、この国で最高の馬だ……! それが、あんな下劣な男に好き放題に言われて、ワシは……ワシは……!」
「お父様……」
それは、私にとっても許しがたい侮辱だった。……私のことはいい。くだらない人たちに何を言われようと、そんなのは大したことじゃない。でも、フォーリー家の誇りであり、お父様の誇りである軍馬調練にデタラメな言いがかりをつけ、大公様からの信頼まで奪ったのは許せない。
もはや夕食を続けられる精神状態ではなかった。今の私は、世界で最高の美食を口に入れたとしても、何の味も感じないだろう。それほどに私は怒っていた。出かける支度を整えると馬屋に行き、フォーリー家で最も足の速い馬に跨り、お屋敷を飛び出した。
幸い……と言っていいのだろうか。今夜は満月で、視界は十分に明るい。これなら問題なく馬を駆けさせることができる。目指すのは、駿馬に乗ればそう遠くない距離にあるウォード家の屋敷だった。
行ってどうする?
当主であるラスールに直接抗議をするの? ……そんなことをしても、小娘の戯言と笑われるだけだ。そもそも、エリックとの婚約を破棄した私に不快感を抱いているだろうし、会ってすらくれない可能性が高い。
それでも、行かずにはいられなかった。
感情と行動力が、理性を凌駕していた。
お父様と同じく、私も悔しくて悔しくてたまらなかったのだ。力強く地面を蹴る蹄の音以上に、自分自身が奥歯を噛みしめるきしんだ音が、脳裏に響くようだった。
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フォーリー家が手塩にかけて育てた駿馬のスピードは見事なもので、完全に夜が更けてしまう前にウォード家の正門に到着することができた。それでも夜は夜。普通なら、約束のない相手とは面会しない時間である。
しかしこれでも私は、ほんの少し前までは、このウォード家の長男エリックの婚約者だった女だ。門番の青年は私のことを当然覚えており、「クリスタ様の訪問をエリック様にお知らせしますので、少々お待ちください」と言って、急いで屋敷の中に入っていった。
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