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第17話
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ブライスと草原で出会ってから三日ほどたった夜。夕食の席で、明らかにゲッソリとやつれているお父様に私は声をかけた。
「どうしたの、お父様? 顔色が良くない……って言うか、もの凄く悪いけど……」
「うむ……まあ、大丈夫だから……心配無用だ……」
頬はこけ、声は耳をそばだてなければ聞き取れないほど小さい。どう考えても心配無用な状況とは思えなかった。我がフォーリー家は領地が小さい分、大きなもめごともなく、こんなに悩んでいそうなお父様を見るのは初めてのことである。
お父様の悩みの種は、一つしか思い当たらない。恐らく、いや間違いなく、私とエリックの婚約破棄に関して、ウォード家と何かがあったのだろう。
私は今頭に浮かんだことを、ほとんどそのまま口に出した。
「お父様、私とエリックの婚約破棄に関して、ウォード家と何かあったの?」
「…………」
沈黙は肯定と受け取るべきだろう。エリックとの婚約を破棄したこと自体は正しい選択だと思っているし、後悔もしていないが、いつもおおらかで血色の良いお父様の顔をこんなにも青ざめさせる原因を自分が作ったと思うと、とても胸が痛んだ。
「…………」
この前は雄弁だったお母様も、あの時に一年分を一度に喋りきってしまったのか、今日はいつも以上に静かだ。しかしお母様も、ウォード家とのトラブルについて詳細を聞きたいに違いない。だから今回は、私が率先してお父様から話を聞くことにしよう。
「お願い、お父様。何があったか教えて。どんなトラブルだろうと、私の婚約破棄が原因で引き起こされたことでしょうし、私は知っておかなきゃならないと思うの」
「何を言う。もともとの原因はウォード家の真の悪辣さを見抜けず、お前を通して奴らと姻族関係を結ぼうとしていたワシの愚かさだ。だからこれくらいの恥辱、ワシ一人で甘んじて受け入れてみせるよ……」
「恥辱? いったい何をされたの?」
「…………」
「お父様!」
度重なる私の問いに、お父様はとうとう重たい口を開いた。
「……つい先日、地方領主たちが一堂に会する集まりがあった。我らの監督役も務められている大公様も足を運ばれる特別な会議だ。その誉れある会議で奴は――ウォード家の当主ラスールは、ワシを公然と罵ったのだ。『馬鹿娘のしつけも満足にできない愚物』と。『こんな低能に軍馬の調練を任せていては、肝心な時に役に立たない駄馬ばかり育つ』と……」
心に秘めていた不安や苦しみというものは、一度語り始めると、今度は逆に止まらなくなるのが人間の心理である。お父様は恥辱に身を震わせながら、思いを吐き出し続けた。
「どうしたの、お父様? 顔色が良くない……って言うか、もの凄く悪いけど……」
「うむ……まあ、大丈夫だから……心配無用だ……」
頬はこけ、声は耳をそばだてなければ聞き取れないほど小さい。どう考えても心配無用な状況とは思えなかった。我がフォーリー家は領地が小さい分、大きなもめごともなく、こんなに悩んでいそうなお父様を見るのは初めてのことである。
お父様の悩みの種は、一つしか思い当たらない。恐らく、いや間違いなく、私とエリックの婚約破棄に関して、ウォード家と何かがあったのだろう。
私は今頭に浮かんだことを、ほとんどそのまま口に出した。
「お父様、私とエリックの婚約破棄に関して、ウォード家と何かあったの?」
「…………」
沈黙は肯定と受け取るべきだろう。エリックとの婚約を破棄したこと自体は正しい選択だと思っているし、後悔もしていないが、いつもおおらかで血色の良いお父様の顔をこんなにも青ざめさせる原因を自分が作ったと思うと、とても胸が痛んだ。
「…………」
この前は雄弁だったお母様も、あの時に一年分を一度に喋りきってしまったのか、今日はいつも以上に静かだ。しかしお母様も、ウォード家とのトラブルについて詳細を聞きたいに違いない。だから今回は、私が率先してお父様から話を聞くことにしよう。
「お願い、お父様。何があったか教えて。どんなトラブルだろうと、私の婚約破棄が原因で引き起こされたことでしょうし、私は知っておかなきゃならないと思うの」
「何を言う。もともとの原因はウォード家の真の悪辣さを見抜けず、お前を通して奴らと姻族関係を結ぼうとしていたワシの愚かさだ。だからこれくらいの恥辱、ワシ一人で甘んじて受け入れてみせるよ……」
「恥辱? いったい何をされたの?」
「…………」
「お父様!」
度重なる私の問いに、お父様はとうとう重たい口を開いた。
「……つい先日、地方領主たちが一堂に会する集まりがあった。我らの監督役も務められている大公様も足を運ばれる特別な会議だ。その誉れある会議で奴は――ウォード家の当主ラスールは、ワシを公然と罵ったのだ。『馬鹿娘のしつけも満足にできない愚物』と。『こんな低能に軍馬の調練を任せていては、肝心な時に役に立たない駄馬ばかり育つ』と……」
心に秘めていた不安や苦しみというものは、一度語り始めると、今度は逆に止まらなくなるのが人間の心理である。お父様は恥辱に身を震わせながら、思いを吐き出し続けた。
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