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第13話

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 もちろん私は厩舎の娘ではないが、そういうことにしておこう。

「あの立派な馬は、ノームと言うのですね。ブライスさん、ノームは怒ってたわけじゃないんです。ただ、今まで遭遇したことのない状況に驚いて、怖がっていただけなんです」

「というと? ……おっと、すまない。いつまでも馴れ馴れしく抱えていては、失礼だね」

 その瞬間、今の今まで彼の腕に抱かれていたことを自覚し、少し顔が赤くなる。ブライスも照れたようにはにかみ、私たちは少しの間、互いに微笑み合った。

 それから私はしゃがみ込み、足元の草を手でよけて見せる。

「これを見てください」

 そこには、穴が開いていた。大きくはないが、決して小さくもない。幼い子供の足なら、スポッとはまってしまうくらいの大きさである。

「これは?」

「ミグルという、モグラに似た小動物が掘った穴です。ミグルはこの草原の地下に大量に生息していて、時折穴を掘って地表に姿を現します。だからこの辺りは、馬で走りやすそうに見えて実は穴だらけで、凄く危ないんです。ノームはきっと、何度もこの穴に足を取られてパニック状態になったんだと思います」

 この、足は取られるが馬が転ぶほどではない大きさの穴は、悪路を行くことも多い軍馬の調練には持ってこいなのだが、恐らくは速足が自慢であろうノームのスマートなおみ足にとっては、まさしく恐怖の罠といえることだろう。

 ブライスはすっかり落ち着いたノームの鼻筋の辺りを撫で、心から申し訳なさそうな顔をした。

「そうか……。僕は遠目に見て、この草原ならノームも思い切り走れるだろうと思ったんだけど、無知ゆえのとんでもない思い違いだったんだね。ノームには可哀そうなことをしてしまったし、クリスタ、きみにも危ない思いをさせてしまった。本当にすまない。緊張で、さぞ寿命が縮んだことだろう」

 そして、深々と頭を下げる。

 ……この人は、なんて素直に感謝や謝罪の気持ちを述べる人なのだろう。相当に高い身分だろうに、それが厩舎の娘(本当は違うんだけど)に頭を下げるなんて、普通ならあり得ないことだ。少なくとも、無神経かつプライドの高いエリックなら、間違ってもこんな振る舞いはできない。

 ブライスに好感を持った私は、いまだに心苦しそうにしている彼の気持ちを少しでも軽くするために、微笑みながら、ちょっと冗談めかした軽口をたたいた。

「大丈夫です。私、あの程度のことで寿命が縮むほど大人しい女じゃありませんよ」

「そうか……強いね。ところで君は、こんなところで何を?」

 よく考えてみれば、厩舎の娘なら今は働いている時間だ。それが、草原でたった一人ぼぉっとしているなんて、誰でも疑問に思うだろう。私は少し考えて、ほとんどありのままを述べることにした。何が何でも素性を隠し通す必要もなく、『本当に厩舎の娘か?』と問われれば、素直に身分を明かすつもりだった。
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