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第8話
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担当官さんは私の顔をしみじみと見ながら、こうも言っていた。
『あなたのお気持ち、よくわかりますよ。遊びのような恋愛ではなく、そう遠くない将来に必ず結婚するという気持ちで婚約関係になると、相手の問題点が色々見えてきたんでしょう? わかりますわかります。私もそうでしたから。正しい決断だと思いますよ。合わない相手と、一生共に過ごすほど苦しいことはないでしょうからね』
よく分からないが、この担当官さんにも昔は色々あったようだ、まさに『人に歴史あり』である。なんにしても、私の決断を理解してくれる人がいるのは嬉しいことだった。
とはいえ、これから家に帰ってエリックとの婚約を破棄したことを両親に伝えなければならないと思うと、やはり気が重かった。
前にも述べたが、私とエリックの婚約は単なる恋愛の発展ではなく、我がフォーリー家とエリックのウォード家の繋がりを強固にするための政治的側面が大きく、それが反故になったと知れば、両親は少なからず落胆するだろう。
まあ、もうやってしまったことは仕方ないし、どんなに言われても一度破棄した婚約を結びなおすことは手続き上できない(できるとしても絶対やらないけど)。それに、お父様もお母様も、私のやることをいつも最後には認めてくれるので、きちんと話せばわかってくれるはずだ。
・
・
・
「えぇー……それで、今日のうちに婚約を解消してしまったのか……? クリスタよ……お前、そんな……ちょっとスピーディーすぎやしないか……?」
夕食の席ですべてを打ち明けると、お父様はまだ現実を受け止め切れていないという感じでそう言った。お父様はおおらかな人なので、激しく叱責を受けるようなことはないとは思っていたが、今はとにかく、怒りがどうとか言うより、困惑の感情が大きいようである。
うーん……
娘がいきなり婚約を解消して来たのだから、それも当たり前か。
今度は、お母様の方に視線をやる。
「…………」
無言。
完全なる無言だ。
表情も『無』である。お母様はもともと感情表現に乏しい人だけど、今日はいつも以上に何を考えているか分からない。怒っていると言われれば怒っているような気もするし、嘆いていると言われれば嘆いているようにも見える。
いや、でもやっぱり怒ってるのかな……
そう思うのは、両親に一言も相談せずに、我がフォーリー家にとって大事な婚約を破棄してしまったことに対するうしろめたさがあるからだろうか。
やがてお父様も黙ってしまい、しばらく重苦しい沈黙の夕食が続いた。うちの家族は普段から静かに食事をするが、それでもこんなに音のしない食卓は初めてだった。
『あなたのお気持ち、よくわかりますよ。遊びのような恋愛ではなく、そう遠くない将来に必ず結婚するという気持ちで婚約関係になると、相手の問題点が色々見えてきたんでしょう? わかりますわかります。私もそうでしたから。正しい決断だと思いますよ。合わない相手と、一生共に過ごすほど苦しいことはないでしょうからね』
よく分からないが、この担当官さんにも昔は色々あったようだ、まさに『人に歴史あり』である。なんにしても、私の決断を理解してくれる人がいるのは嬉しいことだった。
とはいえ、これから家に帰ってエリックとの婚約を破棄したことを両親に伝えなければならないと思うと、やはり気が重かった。
前にも述べたが、私とエリックの婚約は単なる恋愛の発展ではなく、我がフォーリー家とエリックのウォード家の繋がりを強固にするための政治的側面が大きく、それが反故になったと知れば、両親は少なからず落胆するだろう。
まあ、もうやってしまったことは仕方ないし、どんなに言われても一度破棄した婚約を結びなおすことは手続き上できない(できるとしても絶対やらないけど)。それに、お父様もお母様も、私のやることをいつも最後には認めてくれるので、きちんと話せばわかってくれるはずだ。
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「えぇー……それで、今日のうちに婚約を解消してしまったのか……? クリスタよ……お前、そんな……ちょっとスピーディーすぎやしないか……?」
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うーん……
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今度は、お母様の方に視線をやる。
「…………」
無言。
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表情も『無』である。お母様はもともと感情表現に乏しい人だけど、今日はいつも以上に何を考えているか分からない。怒っていると言われれば怒っているような気もするし、嘆いていると言われれば嘆いているようにも見える。
いや、でもやっぱり怒ってるのかな……
そう思うのは、両親に一言も相談せずに、我がフォーリー家にとって大事な婚約を破棄してしまったことに対するうしろめたさがあるからだろうか。
やがてお父様も黙ってしまい、しばらく重苦しい沈黙の夕食が続いた。うちの家族は普段から静かに食事をするが、それでもこんなに音のしない食卓は初めてだった。
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