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第3話

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 なんて程度の低いことを言うんだろう。今ので完全に、なんとかして彼女と良い関係を築いていく気が吹っ飛んでしまった。世の中には、どんなに言い聞かせても聞く耳を持たない人間がいる。キャロルはまさにそれらしい。

 困り果てた私は、助けを求めるようにエリックを見た。やりたい放題言いたい放題のキャロルを窘めることができるのは、彼女が敬愛するお兄様――つまり、エリック以外にいないだろう。

 彼が妹に特別甘いことはこれまでの行動でわかっていた(私とのデートへの同行を許すくらいだし……)が、さすがに先程からのキャロルの物言いは酷すぎる。そろそろきつく叱ってくれるに違いない。

 ……だが、私の淡い期待は裏切られた。エリックは何も言わないのだ。しかも『どうやって妹を窘めればいいか悩み、簡単に言葉が出せずにいる』という感じではない。まるで微笑ましいものでも見るかのように、ニコニコとキャロルを眺めているのである。

 この時の私の心情は、失望より困惑の方がはるかに大きかった。キャロルの言動は、親族なら毅然と窘めなければいけないほど低劣なものだったというのに、ニコニコ笑っている彼が理解できない。その思いが、ほとんどそのまま口から出た。

「ねえ、エリック。笑ってないで、あなたからも何とか言ってちょうだい」

 そこで初めて、エリックは心底不思議そうな顔で言葉を返す。

「えっ? 何とかって、何を言うんだ?」

「何って……。さっきからのキャロルの態度は酷すぎるわ。兄であるあなたから、きちんと言い聞かせてほしいの。何を言っても怒られず、どこまでも自由な振る舞いが許されると思っているようじゃ、キャロルの今後のためにも良くないわ」

「は? キャロルが何か酷いことを言ったか? クリスタ、何をそんなに真剣になっているんだ。もしかして、キャロルがきみを『面倒くさい婆さん』呼ばわりしたことを怒っているのか? あんなの、可愛い冗談じゃないか。この程度のことに目くじらを立てるなんて、それこそまさに『面倒くさい婆さん』みたいだぞ」

 面倒くさい婆さんって……
 あなたまでそれを言うの……?

『この程度のこと』って、大事なことでしょ?
 私たち、これから結婚して同じ一族になるのよ?
 親族の間違いを年長者が窘めなくてどうするの?

 軽いめまいがした。認めるのは辛いが、エリックもキャロルと同じ側の人間らしい。……いや、実を言えば、以前から彼のことも『少しおかしいな』と思うことはあった。そもそも滅茶苦茶な妹を毎度毎度デートに連れてくる時点でまあかなりおかしいのだが、それ以外にも『あれ?』と首をかしげることが多々あったのである。
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