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第23話

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 確かに私は今、少しぼおっとしている。……と言うより、寝不足なのだ。昨晩は、あの小さな宿で兄さんと同室だったので、変に意識してしまい、よく眠れなかった。

 兄さんはと言えば、私にあんな話をしたにもかかわらず、よく食べて、よく寝て、今日は絶好調のようである。その図太さが、少々腹立たしく、妬ましく、それでいて、不思議なことにほんのちょっとだけ、愛おしくもあった。

 愛おしい、か……

 昨日の話で、ハーキース兄さんが私を単なる義理の妹としてではなく、異性として想ってくれていることが分かった。それに対する私の気持ちは、なんだか複雑だ。

 いや、複雑と言っても、嫌な感情はない。どちらかと言えば、嬉しい……のかもしれない。なら、私も兄さんのことを、異性として好いているということなのだろうか?

 ただ、その好きという気持ちが、純粋な愛情なのか、婚約者ルドウィンに冷たくされ、失意の中で誰よりも優しく接してくれた兄さんに対する感謝の気持ちからくるものなのか、今の私には、判別がつかなかった。

 どっちにしても、私は兄さんのことを妙に意識してしまい、都までの道中、通過点の町や村で何度か休憩をとったのだが、最低限必要なこと以外は、ほとんど口をきくことができなかった。……昔の兄さんも、こんな気持ちだったのかな。

 しかし、そんなモヤモヤした時間も、もう終わりだ。

 現在時刻、午後三時四十五分。

 二頭の駿馬が、想像以上に頑張って走ってくれたおかげで、私と兄さんは予定よりも早い時間に、ヘンリアム聖王国の都である『ガストネス』に到着したのである。すべての私事は、ひとまず心のうちに沈めておくことにしよう。

 ガストネスは城塞都市であり、侵攻してくる魔物たちと戦う最前線でもある。

 何故、国の都が最前線にあるのかと言うと、ここがヘンリアム聖王国で最も安全だからだ。頑丈で高い外壁と強力な聖騎士団、そして聖王国の守護の象徴である『聖女』に守られたガストネスは、まさしく難攻不落の城塞である。

 だが、その難攻不落の城塞が、今は見る影もなかった。

 町のあちこちで火の手が上がり、人々の悲鳴が聞こえてくる。
 建物の多くに、明らかに戦闘の影響によるものと思われる傷がついており、深くえぐれた傷の一つ一つが、ただならぬ状況であることを、どんな言葉よりも雄弁に語っていた。

 どうしてこんなことに……これじゃ、まるで戦争じゃない……

「ローレッタ、気をつけろ! モンスターだ!」

 兄さんの声で、私はハッと我に返る。
 いつの間にか、正面に魔物がいた。

 野生のヒヒに似た、小型のモンスターである。
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