18 / 24
第18話(ジェイリアム視点)
しおりを挟む
何も言わない俺の代わりに、エルディット・マーク2は、淡々と言葉を続けていく。
「今はまだ、ただ喚いて行進しているだけですが、放っておけば、彼らは陛下を『弱腰の執政者』とあなどり、すぐに暴徒と化すでしょう。甘やかせばつけ上がり、締め付けすぎれば暴れ出す。民衆とは、なんて不安定で、愚かな存在でしょう。そんな彼らを導くためにも、陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです」
俺は、苦笑した。
『陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです』か。
エルディット・マーク2は、機械的に正論を述べるだけではなく、しばしばこのようなことを述べて、俺のご機嫌取りをする。見え見えのお世辞ではあるが、そのお世辞を言うタイミングが、いつも絶妙だった。
人は誰しも、悩み、惑う。
そして、悩みと惑いからくる不安で決断が鈍る時がある。
そんなとき、トンと背中を押すように、エルディット・マーク2は、俺が最も喜ぶであろう言葉を、かけてくるのだ。……全て、機械頭脳の計算でやっているのだろうか。そう思うと、少しだけ恐ろしくなる。
そっと、俺の腕に、何かが触れた。
それは、エルディット・マーク2の手だった。
機械の動きとは思えない、たおやかで、優美な手つき。エルディット・マーク2は、俺の決断を急かすようなことをせず、躊躇心を溶かすように、俺の腕を優しく撫でた。
……恐れ入った。
まさか、エルディット・マーク2が、スキンシップをしてくるとは。
寵姫たちが、俺に媚びる姿を見て、学習したのだろう。判断に迷っている俺には、正論を並べ立てるより、こうやって決断を待つのが、一番効果的だと。
実際、エルディット・マーク2の行動は、最適だった。迷っている今の俺は、ああしろこうしろと、頭ごなしにしつこく言われたら、逆に反発したことだろう。静かに、いじらしく決断を待つエルディット・マーク2の動作は、少しずつ俺の迷いを消していく。
元々、高度な学習機能を備えているエルディット・マーク2だが、最近の成長ぶりは、目を見張るものがあった。自分自身で加工したのだろうか? 初期は金属がむき出しであった部分にも人工皮膚が張られ、エルディット・マーク2の美しさは、かつての聖女エルディットに勝るとも劣らないものになっていた。
「今はまだ、ただ喚いて行進しているだけですが、放っておけば、彼らは陛下を『弱腰の執政者』とあなどり、すぐに暴徒と化すでしょう。甘やかせばつけ上がり、締め付けすぎれば暴れ出す。民衆とは、なんて不安定で、愚かな存在でしょう。そんな彼らを導くためにも、陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです」
俺は、苦笑した。
『陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです』か。
エルディット・マーク2は、機械的に正論を述べるだけではなく、しばしばこのようなことを述べて、俺のご機嫌取りをする。見え見えのお世辞ではあるが、そのお世辞を言うタイミングが、いつも絶妙だった。
人は誰しも、悩み、惑う。
そして、悩みと惑いからくる不安で決断が鈍る時がある。
そんなとき、トンと背中を押すように、エルディット・マーク2は、俺が最も喜ぶであろう言葉を、かけてくるのだ。……全て、機械頭脳の計算でやっているのだろうか。そう思うと、少しだけ恐ろしくなる。
そっと、俺の腕に、何かが触れた。
それは、エルディット・マーク2の手だった。
機械の動きとは思えない、たおやかで、優美な手つき。エルディット・マーク2は、俺の決断を急かすようなことをせず、躊躇心を溶かすように、俺の腕を優しく撫でた。
……恐れ入った。
まさか、エルディット・マーク2が、スキンシップをしてくるとは。
寵姫たちが、俺に媚びる姿を見て、学習したのだろう。判断に迷っている俺には、正論を並べ立てるより、こうやって決断を待つのが、一番効果的だと。
実際、エルディット・マーク2の行動は、最適だった。迷っている今の俺は、ああしろこうしろと、頭ごなしにしつこく言われたら、逆に反発したことだろう。静かに、いじらしく決断を待つエルディット・マーク2の動作は、少しずつ俺の迷いを消していく。
元々、高度な学習機能を備えているエルディット・マーク2だが、最近の成長ぶりは、目を見張るものがあった。自分自身で加工したのだろうか? 初期は金属がむき出しであった部分にも人工皮膚が張られ、エルディット・マーク2の美しさは、かつての聖女エルディットに勝るとも劣らないものになっていた。
12
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる