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第18話(ジェイリアム視点)

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 何も言わない俺の代わりに、エルディット・マーク2は、淡々と言葉を続けていく。

「今はまだ、ただ喚いて行進しているだけですが、放っておけば、彼らは陛下を『弱腰の執政者』とあなどり、すぐに暴徒と化すでしょう。甘やかせばつけ上がり、締め付けすぎれば暴れ出す。民衆とは、なんて不安定で、愚かな存在でしょう。そんな彼らを導くためにも、陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです」

 俺は、苦笑した。

『陛下のように強い決断力を持った偉大な指導者が必要なのです』か。

 エルディット・マーク2は、機械的に正論を述べるだけではなく、しばしばこのようなことを述べて、俺のご機嫌取りをする。見え見えのお世辞ではあるが、そのお世辞を言うタイミングが、いつも絶妙だった。

 人は誰しも、悩み、惑う。
 そして、悩みと惑いからくる不安で決断が鈍る時がある。

 そんなとき、トンと背中を押すように、エルディット・マーク2は、俺が最も喜ぶであろう言葉を、かけてくるのだ。……全て、機械頭脳の計算でやっているのだろうか。そう思うと、少しだけ恐ろしくなる。

 そっと、俺の腕に、何かが触れた。
 それは、エルディット・マーク2の手だった。

 機械の動きとは思えない、たおやかで、優美な手つき。エルディット・マーク2は、俺の決断を急かすようなことをせず、躊躇心を溶かすように、俺の腕を優しく撫でた。

 ……恐れ入った。
 まさか、エルディット・マーク2が、スキンシップをしてくるとは。

 寵姫たちが、俺に媚びる姿を見て、学習したのだろう。判断に迷っている俺には、正論を並べ立てるより、こうやって決断を待つのが、一番効果的だと。

 実際、エルディット・マーク2の行動は、最適だった。迷っている今の俺は、ああしろこうしろと、頭ごなしにしつこく言われたら、逆に反発したことだろう。静かに、いじらしく決断を待つエルディット・マーク2の動作は、少しずつ俺の迷いを消していく。

 元々、高度な学習機能を備えているエルディット・マーク2だが、最近の成長ぶりは、目を見張るものがあった。自分自身で加工したのだろうか? 初期は金属がむき出しであった部分にも人工皮膚が張られ、エルディット・マーク2の美しさは、かつての聖女エルディットに勝るとも劣らないものになっていた。
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