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第11話(ジェイリアム視点)

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「いいえ、国王陛下。万引きをしても、厳しく咎められないような子供は、盗みの味を占め、いずれ本格的な窃盗犯になります。酔っ払い同士の軽い喧嘩も、侮ってはいけません。小さな暴力が、大きな暴力を生むのです。些細なきっかけで始まった諍いから憎しみが募り、殺人事件に発展したケースは非常に多いのです」

「ふーむ……」

「最初から凶悪な者なら、私の聖女の力で排除できますが、少しずつ悪しき道に染まっていく者は、そうもいきません。軽犯罪者は、いわば悪の火種です。火種は、対処が容易な小さいうちに消さなければならないのです」

「『火種は、対処が容易な小さいうちに消さなければならない』か……確かに、その通りだ。俺の理想とする『完璧なる平和』のためには、わずかな火種も許しておいてはいけない。で、具体的にどうすればいい?」

 エルディット・マーク2は、先程までとまったく変わらない機械的な微笑で、優しく言い放った。

「簡単なことです。こういう場合、最も効果が高いのは『見せしめ』であると、歴史が証明しています。子供であろうと、何であろうと、人の物を盗んだ罪人は、その両腕を切り落とすのです。二度と盗みができないように」

「…………」

「喧嘩をしたものは、闘技場に閉じ込め、二人とも死ぬまで戦わせます。争いの愚かさを、民衆に知らしめるためです」

 恐るべき提案だった。
 しかし、一理あった。

 盗みの罰が両腕を切り落とされることとなれば、よっぽどの馬鹿以外は、間違っても万引きなどしないはずだ。とても、割に合わないからな。

 つまらない喧嘩の末路が、公衆の面前で死ぬまで戦わされることとなれば、やれ肩がぶつかっただの、やれ目つきが気に入らないなどの理由で喧嘩を始める阿呆はいなくなるだろう。死んでもいいから喧嘩をやりたいと思っているような狂人など、そうそういるとは思えない。

 思案する俺に、エルディット・マーク2は優しい声で畳みかけてくる。

「国王陛下。これまで誰もなしえなかった『完璧なる平和の国』を作るためには、これまで誰も科さなかったような厳しい罰が必要なのです。どうか、『軽犯罪の厳罰化』をご決断ください。すべては『完璧なる平和』のためなのです」

 結局俺は、それほど悩まずに、エルディット・マーク2の言う通りにすることにした。彼女の提案した『出入国審査の厳格化』により、アデライド王国が間違いなく良い方向に行ったという成功体験があったからだ。

 軽犯罪の厳罰化を発表したとき、国民たちは、鼻で笑っていた。

 皆、こう思っていたのだ。

『そんなこと、できるはずがない。我々には人権があるんだぞ』と。

 だが、軽犯罪厳罰化の施行後、万引きをした不良グループ全員の両腕を切り落としたことで、皆、俺が本気であることを悟り、青ざめた。

 町から、たちまちのうちに、窃盗はなくなった。
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