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第10話(ジェイリアム視点)
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そして俺は、すぐさま、どこの国よりも厳格な出入国管理局を作った。
当たり前のことだが、外国への人の行き来が減ったことで、貿易総額は大幅に下がった。だが、他国との貿易が自由にできなくなった分、国内の産業が発展し、経済的にはむしろ豊かになったくらいだった。
エルディット・マーク2は、きっとこの結果を最初から予測していたのだろう。さすがは機械の頭脳だ。人間のとろくさい頭とは、根本的に出来が違う。
出入国の厳格化により、アデライド王国の治安は、より完璧なものになった。
外国から入って来るのは、素行、身分共に、わずかの問題もない、善良な者のみ。厳重な検疫制度により、未知の病原体が侵入することも、まずない。
事実、出入国の審査を厳格化してから、外国人の犯罪者は、一人も出ていない。これまで、何年かに一度は、外国から入って来た『はやり病』で人々が苦しむことがあったが、今はそれもない。
素晴らしい。
本当に、素晴らしい。
素晴らしい治安。
素晴らしい環境。
素晴らしい経済。
アデライド王国は、エルディット・マーク2という完璧なる守護者のおかげで、着実に理想国家へと近づいている。俺は喜び勇んで、エルディット・マーク2をねぎらった。
「見事だ、エルディット・マーク2。お前の言う通りにして、本当に良かったよ。世界中探しても、我がアデライド王国ほど繁栄し、それでいて平和な国は存在しない。何もかも、お前のおかげだ。お前がアデライド王国に、『完璧なる平和』をもたらしたのだ」
しかしエルディット・マーク2は、喜ぶこともなく、いつもと変わらぬ機械的な微笑を浮かべ、いつもと変わらぬ機械的な声で、滔々と語り始めた。
「いいえ、国王陛下。確かにアデライド王国は、以前よりかなり平和になりました。しかし、まだ完璧とは言えません。これほど厳しい管理をしているのにもかかわらず、犯罪率がゼロにならないのです」
「なに? そうなのか?」
「前にも述べましたが、私の聖なる力により、殺人や強盗のような凶悪犯罪は皆無になりました。出入国審査厳格化により、外国人の軽犯罪も、ゼロになりました。しかし、アデライド王国の国民による軽犯罪が、ゼロになっていません。窃盗や暴行などの軽微な犯罪が、週に一度は起こっています。これは由々しき問題です」
「窃盗や暴行と言っても、子供が万引きをしたり、酔っ払い同士が喧嘩をする程度の話だろう? そんなもの、犯罪のうちに……」
当たり前のことだが、外国への人の行き来が減ったことで、貿易総額は大幅に下がった。だが、他国との貿易が自由にできなくなった分、国内の産業が発展し、経済的にはむしろ豊かになったくらいだった。
エルディット・マーク2は、きっとこの結果を最初から予測していたのだろう。さすがは機械の頭脳だ。人間のとろくさい頭とは、根本的に出来が違う。
出入国の厳格化により、アデライド王国の治安は、より完璧なものになった。
外国から入って来るのは、素行、身分共に、わずかの問題もない、善良な者のみ。厳重な検疫制度により、未知の病原体が侵入することも、まずない。
事実、出入国の審査を厳格化してから、外国人の犯罪者は、一人も出ていない。これまで、何年かに一度は、外国から入って来た『はやり病』で人々が苦しむことがあったが、今はそれもない。
素晴らしい。
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アデライド王国は、エルディット・マーク2という完璧なる守護者のおかげで、着実に理想国家へと近づいている。俺は喜び勇んで、エルディット・マーク2をねぎらった。
「見事だ、エルディット・マーク2。お前の言う通りにして、本当に良かったよ。世界中探しても、我がアデライド王国ほど繁栄し、それでいて平和な国は存在しない。何もかも、お前のおかげだ。お前がアデライド王国に、『完璧なる平和』をもたらしたのだ」
しかしエルディット・マーク2は、喜ぶこともなく、いつもと変わらぬ機械的な微笑を浮かべ、いつもと変わらぬ機械的な声で、滔々と語り始めた。
「いいえ、国王陛下。確かにアデライド王国は、以前よりかなり平和になりました。しかし、まだ完璧とは言えません。これほど厳しい管理をしているのにもかかわらず、犯罪率がゼロにならないのです」
「なに? そうなのか?」
「前にも述べましたが、私の聖なる力により、殺人や強盗のような凶悪犯罪は皆無になりました。出入国審査厳格化により、外国人の軽犯罪も、ゼロになりました。しかし、アデライド王国の国民による軽犯罪が、ゼロになっていません。窃盗や暴行などの軽微な犯罪が、週に一度は起こっています。これは由々しき問題です」
「窃盗や暴行と言っても、子供が万引きをしたり、酔っ払い同士が喧嘩をする程度の話だろう? そんなもの、犯罪のうちに……」
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