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第9話(ジェイリアム視点)

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「国王陛下。この国は、人の出入りが多すぎます。出入国の審査を厳格化し、一日の入国者、出国者の数を、合計で10人までとしましょう」

 俺は、困惑した。

 アデライド王国はそれほど貿易の盛んな国ではない。それでも、一日に100人以上は、外国から入って来る者、そして、出国していく者がいる。その出入国者の数を、たった10人に絞ることなど、できるはずがない。

 そんなことは、エルディット・マーク2も分かっているはずだ。何といっても彼女は、人間よりも優れた機械の頭脳を持っているのだから。

 俺は、エルディット・マーク2に、何故出入国の審査を厳格化したいのかを、尋ねた。するとエルディット・マーク2は、淀みない弁舌で、スラスラとその理由を述べる。

「恐れながら申し上げます。国王陛下は以前私に、『完璧なる平和』の『完璧なる国』を作るにはどうすればよいかと、尋ねられましたね。私はそれ以来、どうすればアデライド王国が『完璧なる平和』を得ることができるか、常に考えています」

「…………」

「現在、私の聖なる力によって、魔物たちは完全にシャットアウトすることができています。人間の犯罪者も、随分と減りました。しかし、ゼロになったわけではありません。私の聖女の力は、凶悪犯を魔物と同一視して排除しますが、軽犯罪者はそうもいきません。国の中に一人でも犯罪者がいては『完璧なる平和』とは言えません」

「ふむ……」

「犯罪者の比率を計算して分かったのですが、この国で起こる不法行為の5割以上は、外国から入って来る者が犯しています。ですから、入国者を厳しく審査すれば、犯罪の発生リスクを最小限に抑えることができるのです。そして、完璧に入国者の審査をするのは、一日に10人が限界なのです」

「なるほど、よく分かった。だが、そういうことなら、出国者については、別に制限を設けなくても良いのではないか?」

「いえ、そうもいきません。出国した者は、いずれ帰ってきます。その際、外国から未知の伝染病を持ち帰ってくる可能性があります。私のデータベースによると、帰国者が持ち込んだ病原菌のせいで滅びてしまった国は、これまでの人類の歴史で、星の数ほどあるのです」

「そうなのか……恐ろしい話だな」

 エルディット・マーク2は、ギギギと首を動かし、頷いた。

「私はこのアデライド王国を、あらゆる厄災から守らねばなりません。すべては、陛下の望まれる『完璧なる平和』のため。国王陛下、どうか、出入国審査の厳格化をご承認ください」

 俺は少しだけ悩んだが、エルディット・マーク2の意見を採用した。彼女の言う通りにしていれば、まず間違いはないだろうと思ったからだ。

 エルディット・マーク2は、高い知能と豊富な知識を持っており、あらゆる可能性を考慮して未来を推し量る、予測能力も備えている。『これはどうしたものだろう』と迷っている時間があるのなら、一度、エルディット・マーク2の思う通りにさせてみればいい。

 なあに、それで、思ったような成果が出なかったら、すぐに出入国の審査を、今まで通りの形に戻すだけのことだ。
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