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第6話

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 数時間かけて山を登り、山の神の祠の前に到着すると、私は荒っぽくお神輿から降ろされる。乗せる時は一応丁寧だったが、いくら力自慢の大男とはいえ、重たいお神輿を担いでの登山で疲れ切り、もう余裕はないのだろう。

 余裕がないのは、彼らだけではない。
 私の素敵な家族たちもだ。

 それというのも、村長の突然の思いつきにより、急遽、いけにえの家族も祠まで行って祈りを捧げなければいけないことになったのである。ちなみに村長は『今日は腰が痛むから山登りは無理じゃ』と言って、いけにえの儀式を最後まで見届けることを拒否した。

 父はぼやいた。

「やっとついたか。まったく、あのボケ村長が。冗談じゃないぞ。いけにえにするためだけに娘を育てるのも一苦労だったのに、最後に登山までさせられるなんてな」

 母もぼやいた。

「ほんとよね。あのジジイ、去年倒れた時は数日で死ぬんじゃないかって期待してたのに、どういうわけか息を吹き返してさ。嫌われ者ほど長生きするって、ああいうのを言うんでしょうね」

 姉は肩をすくめた。

「ねー。あんなジジイの話なんてどうでもいいから、もう帰りましょうよー。私、今日は午後からデートの予定があるんだから。帰ってちゃんと、服と髪を整えたいの」

 祖父は怒った。

「デート!? 駄目だ駄目だ駄目だ。お前はまだ幼い! 男と付き合うのは早いぞ! よいか、男というものは皆ケダモノだ! お前はただのデートのつもりでも……」

「はいはい、わかってるって。それに、まだ付き合ってるわけじゃないの。調子に乗って、指一本でも体に触れてきたら平手打ちをお見舞いしてやるわ。それなら安心でしょ、お爺ちゃん」

「ん。それならよし」

 真っ赤になっていたのに、すぐに納得した祖父がおかしかったのか、家族たちと力自慢の男たちが一斉に笑った。朗らかで楽しい笑い声が、山に木霊した。

 私のために祈る人は誰もいなかった。
 もう誰も、私を見てすらいなかった。

 別れの言葉ひとつなく、皆は山を下りていった。
 私は『物』だった。神様のおうちの前に捨てられた、人間みたいな『物』。

 別に、今さらあの人たちにお別れを言ってほしかったわけじゃない。だけど、自分が誰からも愛されず、無意味な一生を送ったことを改めて思い知らされるのは、辛かった。





 祠の前に放置されて数時間。

 何も起こらない。

 山の神様も、自分の家の前に『鳥ガラ』を置かれて困惑しているのだろうか。

 私は、乾いた唇で呟く。

「スープにしたら美味しいかもしれませんよ」

 返ってくる言葉はなかった。
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