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第3話

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 私は人形。
 死ぬために生まれてきた生き人形。

 何もかも、どうでもよかった。

 いけにえとして、山の神様のもとに連れていかれるのは三日後。

 このどうでもいい一生がやっと終わるのかと思うと、少しだけ嬉しかった。





 この素敵なおうちで過ごす最後の三日間。

 肉や魚どころか、私にはパンひときれすら与えられなかった。

 なんでも祖父の発案で『固形物をとらず、胃に入れるのは水だけにした方が、より体の穢れが抜け、清浄ないけにえになる気がするから』とのことらしい。

『気がするから』って何よ。

 あまりにも適当すぎる思いつきに、面白くもないのに笑いがこみ上げてくる。祖父は外見だけは思慮深く優しそうだが、その中身は悪意なく異常な行動をとる狂人だ。

 わけのわからない思いつきで、何度痛い思いをさせられたことか。いけにえとして死ねば、もうこの狂人の相手をしなくてもよくなる。そう思うと、迷信の風習もそう悪いものじゃないわね。





 私がいけにえとして死ぬまで、あと二日。

 私の寝床に指定されている地下室で、私はうずくまっていた。いつも粗末な食事しか与えられていなかったとはいえ、それすらなくなるとさすがに酷い空腹に襲われ、辛かった。

 そんな状態でも、家の中の掃除はしなければならなかった。

 ふらついて膝をついた私を、姉は「酔っ払った年寄りみたい」と笑った。父と母も笑い、祖父だけが不満げに口を尖らせる。

「ワシは酔ってもあんなにふらついたりせんぞ。年寄りを馬鹿にするな」

「ごめんごめん。じゃ、言いなおすわ。アルコール依存症の浮浪者みたい。これでどう?」

「それならよし」

 その満足げな様子がおかしかったのか、家族たちは朗らかに笑いあった。幸福で素敵な、最低の家族たちだった。





 私がいけにえとして死ぬまで、あと一日。

 とうとう前日ということで、掃除はしなくてもよくなった。

 日の光の差し込まない地下室で、もう座る体力もなく、横たわったままの私。そんな私に、話しかける者たちがいる。

「死にかけ、死にかけ。こいつ、死にかけ」
「痩せすぎ、痩せすぎ。こいつ、骨と皮。骨と皮」
「まずそう、まずそう。こいつ、肉がない。まずそう」

 耳障りな声。
 こいつらは、人間じゃない。
 この家に巣食う悪霊たちだ。

 私には、昔から霊感があった。

 他の人には見えない精霊や悪霊の姿をハッキリと捉えることができ、その気になれば触れることもできた。だから、この悪霊だらけの地下室を寝床に指定され、無理やり押し込められたときは『それだけは許して』と泣いて頼んだものだ。当然、聞き入れてもらえなかったが。
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