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第2話

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 最後に口を開いたのは姉だ。

「やっぱりこんな風習、許せないわ。私、今から長老たちのところに行って、直談判してくる。待っててカレン。お姉ちゃんがあなたのこと、助けてあげるからね」

 力強い言葉だった。それが本心から発せられたものであるならば、何もかもどうでもよくなっている私でも、多少は感動したかもしれない。

 私は、何の返事もしなかった。
 この後の話の流れを考えると、返事をするだけ無駄だからだ。

 黙っている私の代わりに、祖父が大きな口を開いて姉を叱る。

「馬鹿者! こんな風習とはなにごとだ! 魔獣、悪霊、天変地異! あらゆる災厄からワシらを守ってくださっているのが山の神様! その偉大な神様にいけにえを捧げるのは当然の礼儀! それがわからぬのかっ!」

 もの凄い剣幕だったが、姉は怯えることもなく、ぺろりと舌を出して微笑した。

「はぁい。ごめんなさい、おじいちゃん。……カレン、そういうわけだから、直談判はできそうにないわ。ああ、私ってなんて無力でかわいそうなんでしょう。愛する妹一人救えないなんて……」

 両手を組み、祈るようなポーズで自分に酔っている姉。最初からこうなることを予想していたくせに、よくもそこまで自己陶酔できるものだ。

 この女は、昔から悲劇のヒロインに憧れているところがあった。そんなに悲劇のヒロインになりたいなら、迷信のいけにえなんて最高だと思うんだけど、どうやらそれは嫌らしい。

 これが私の素敵な家族。

 私を迷信のいけにえにするため『だけ』に、遠い親戚の子である私と半ば無理やり養子縁組をし、ありがたくも今日まで粗末な暮らしをさせてくれた、素晴らしい人たち。その博愛精神には本当に頭が下がる思いである。

『今後は肉や魚を食べてはならない』ですって?

 肉や魚なんて、一度だって食べさせてくれたことなんてないくせに。

『家の中の塵ひとつ見逃さず、常に身辺を清めておくように』ですって?

 いつもそうしてるわ。掃除しないと、一日一度の食事すら出してくれないじゃない。

『肌触りの良い衣服は身に着けてはならない』ですって?

 私が来ているツギハギだらけの服なら安心ね。最悪の肌触りだから。

 こんなふうに思う私だが、怒ってはない。
 目の前の素敵な家族たちを、恨んでもいない。

 もう、何もかもどうでもいいのだ。

 私と同じように育てられれば、誰だってそうなる。

 物心つく前から、ずっといけにえになるためだけに育てられ、誰にも愛されず、外に出る自由もなく、家庭内の雑事以外にやることのない、生殺しのような人生。

 もちろん私だって、一度も反抗しなかったわけじゃない。

 しかし反抗すると、そのたびに父と母はムチを持ち出してきて、私の背中を容赦なく叩いた。まともな教育を受けられなかった私だが、ムチが与える激烈な苦痛だけは、実体験を通して知っている。その痛みは、幼い少女から気力と抵抗心を奪うには充分すぎるものだった。
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