41 / 48
第41話
しおりを挟む
私は思った通りのことを、アリエットに言う。
「意外ね、アリエット。あなたは、父さんと母さんのことを好きだと思ってたけど」
アリエットは鼻で笑い、大げさに肩をすくめた。
「冗談でしょ。あんな、最低の親。子供を無視して、朝からベタベタといちゃついてる姿を見て、何度後ろから刺してやろうと思ったか知れないわ」
「さ、刺すって、そんな……」
「ううん、あいつらだけじゃない。この町の連中は、皆カス同然よ。どいつもこいつも、ちょっとご機嫌を取ってやれば、すぐ私になびく、頭が空っぽな奴ら。本当に脳みそが詰まってるのか、一度頭をかち割って見てみたいもんだわ」
歯を剥き、怒ったような笑みを浮かべながら、次々と狂暴なことを言い始めたアリエットに圧倒され、私は一歩後ずさる。そのままドアを閉めてしまいたかったが、アリエットは私が下がった分距離を詰め、部屋の中に入って来てしまった。そして、そのまま後ろ手にドアを閉め、興奮気味に言葉を続ける。
「私、こんな町、大っ嫌いよ。面白いことなんて、何一つないもの。いいえ、この町以外で暮らしたとしても、面白いことなんてないに決まってる。だって、どいつもこいつも、何もかも、つまんないんだもん。……私の心が、かろうじて満たされるのは、大好きな姉さんと一緒にいる時だけよ。姉さんは、私の世界の全てなの。それなのに……」
アリエットは、狂気に近い、泣き笑いの顔で、私の両肩を掴んだ。
「あの、執事の人と、旅に出てしまうのね。そして、決して私が追いつけない、遠いところに行ってしまう……私の世界は、これでもう、おしまいだわ……」
さっきからアリエットが何を言っているのか、私にはよくわからない。
……しかし、二つだけ分かったことがある。一つは、皆の人気者であるアリエットが、他人を全て侮蔑し、人生に喜びを感じていないこと。そして、もう一つは、アリエットは本当に、心の底から、私のことを好いているということだ。
アリエットが以前、『姉さんのこと、大好きよ』と言ったときは、私のことをからかっているのだと思ったが、どうやらそうではなく、アリエットは本心から私を愛しているらしい。それも恐らくは、世界でただ一人、アリエットは私だけを愛しているようだ。
意味が分からない……
私を愛しているなら、どうしていつも、私を困らせるようなことをしてきたのか。最終的には婚約者まで奪おうとしたり、小さな子供が、大好きな姉に構ってほしくてイタズラをするのとは、あまりにも次元が違う。
私は、自らの肩に置かれたアリエットの手に手を重ね、静かな声で問いかけた。
「意外ね、アリエット。あなたは、父さんと母さんのことを好きだと思ってたけど」
アリエットは鼻で笑い、大げさに肩をすくめた。
「冗談でしょ。あんな、最低の親。子供を無視して、朝からベタベタといちゃついてる姿を見て、何度後ろから刺してやろうと思ったか知れないわ」
「さ、刺すって、そんな……」
「ううん、あいつらだけじゃない。この町の連中は、皆カス同然よ。どいつもこいつも、ちょっとご機嫌を取ってやれば、すぐ私になびく、頭が空っぽな奴ら。本当に脳みそが詰まってるのか、一度頭をかち割って見てみたいもんだわ」
歯を剥き、怒ったような笑みを浮かべながら、次々と狂暴なことを言い始めたアリエットに圧倒され、私は一歩後ずさる。そのままドアを閉めてしまいたかったが、アリエットは私が下がった分距離を詰め、部屋の中に入って来てしまった。そして、そのまま後ろ手にドアを閉め、興奮気味に言葉を続ける。
「私、こんな町、大っ嫌いよ。面白いことなんて、何一つないもの。いいえ、この町以外で暮らしたとしても、面白いことなんてないに決まってる。だって、どいつもこいつも、何もかも、つまんないんだもん。……私の心が、かろうじて満たされるのは、大好きな姉さんと一緒にいる時だけよ。姉さんは、私の世界の全てなの。それなのに……」
アリエットは、狂気に近い、泣き笑いの顔で、私の両肩を掴んだ。
「あの、執事の人と、旅に出てしまうのね。そして、決して私が追いつけない、遠いところに行ってしまう……私の世界は、これでもう、おしまいだわ……」
さっきからアリエットが何を言っているのか、私にはよくわからない。
……しかし、二つだけ分かったことがある。一つは、皆の人気者であるアリエットが、他人を全て侮蔑し、人生に喜びを感じていないこと。そして、もう一つは、アリエットは本当に、心の底から、私のことを好いているということだ。
アリエットが以前、『姉さんのこと、大好きよ』と言ったときは、私のことをからかっているのだと思ったが、どうやらそうではなく、アリエットは本心から私を愛しているらしい。それも恐らくは、世界でただ一人、アリエットは私だけを愛しているようだ。
意味が分からない……
私を愛しているなら、どうしていつも、私を困らせるようなことをしてきたのか。最終的には婚約者まで奪おうとしたり、小さな子供が、大好きな姉に構ってほしくてイタズラをするのとは、あまりにも次元が違う。
私は、自らの肩に置かれたアリエットの手に手を重ね、静かな声で問いかけた。
5
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
政略結婚のハズが門前払いをされまして
紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。
同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。
※小説家になろうでも公開しています。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました
雫まりも
恋愛
第三王子ウィリアムの婚約者候補の1人、エリザベートは“クソデブ”という彼の心無い言葉で振られ、自決を決意する。しかし、屋敷を飛び出し入った森で魔獣に襲われたところを助けられて生き延びてしまう。……それから10年後、彼女は訳あって薬売り(男)として旅をしていた。そんな旅のさなか、仲間に言い寄ってくる男とその付き添い、そして怪しげな魔術師の男も現れて……。
ーーーそれぞれが抱える悲劇の原因が元を辿れば同じだということにまだ気づく者はいない。
※完結まで執筆済み。97+2話で完結予定です。
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。
わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。
「お前が私のお父様を殺したんだろう!」
身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...?
※拙文です。ご容赦ください。
※この物語はフィクションです。
※作者のご都合主義アリ
※三章からは恋愛色強めで書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる