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第15話
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私は、少しだけ態度を崩し、微笑みながら、ジェランドさんに話しかける。
「じゃあ、ヘイデールの婚約者の様子なんて放っておいて、本当に好きな所に行けばよかったのに」
ジェランドさんもまた、先程より砕けた様子で、にこやかに言う。
「私は今さっき言ったように、自分の好きにさせてもらっただけですよ。『ヘイデール様の婚約者だから』という理由ではなく、ただ純粋に、あなたのことが気になったのです」
初めて、『レオノーラ様』という敬称ではなく『あなた』と呼ばれ、なんだかドキッとしてしまう。そんな私の胸のざわつきを知ってか知らずか、ジェランドさんは静かに言葉を続ける。
「先程のヘイデール様の態度は、あまりにも酷すぎました。婚約者であるあなたの前で、アリエット様と異様なほど親密な様子を見せつけた挙句、まんまと彼女に騙され、あなたを突き飛ばし、最後には人格を否定するような発言まで……」
「…………」
「ヘイデール様は、普段は大変温厚でいらっしゃいますが、少々癇癪持ちなところがございまして、一度頭に血が上ると、あんな感じになってしまうのです。私に言われなくても、これまでのお付き合いで、レオノーラ様も薄々は気づき始めていると思いますが……」
「ええ、時々……本当に時々だけど、ヘイデールがカッとなるところは、見たことがあるわ。でも、その怒りが私に向けられたのは初めてだったから、その、正直言って、ショックだったわ……」
瞳を閉じると、まぶたの裏に、先程のヘイデールの冷たい瞳がすぐに浮かんできて、私は慌てて目を開けた。ジェランドさんは、やや厳しい目つきで、口を開く。
「ヘイデール様は、真剣にレオノーラ様のことを好いていらっしゃいますから、普通なら、間違ってもあのような態度は取らないでしょう。あのアリエット様に、たぶらか……いえ、すいません、失言でした」
ジェランドさんは、口に出しかけた『たぶらか』という言葉を大急ぎでストップしたが、私には、彼が何を言おうとしたのか分かった。
『あのアリエット様に、たぶらかされたりしなければ』
ジェランドさんはそう言いそうになり、アリエットの実の姉である私の前で述べるには、あまりにも行き過ぎた言葉――失言だと判断して、慌てて喋るのをやめたのだろう。
……失言だなんて、とんでもない。
ジェランドさんが、アリエットの、あのどこか悪魔的な性格を察知してくれていることが、私は嬉しかった。
この人は、私の理解者になってくれるかもしれない――
図々しくもそう思った私は、気がつけば、アリエットと私のこれまでの関係について、滔々と語り始めていた。……他人の姉妹の問題など、聞いていても面白くもなんともないだろうに、ジェランドさんは、直立不動のまま、真剣に耳を傾けてくれた。
「じゃあ、ヘイデールの婚約者の様子なんて放っておいて、本当に好きな所に行けばよかったのに」
ジェランドさんもまた、先程より砕けた様子で、にこやかに言う。
「私は今さっき言ったように、自分の好きにさせてもらっただけですよ。『ヘイデール様の婚約者だから』という理由ではなく、ただ純粋に、あなたのことが気になったのです」
初めて、『レオノーラ様』という敬称ではなく『あなた』と呼ばれ、なんだかドキッとしてしまう。そんな私の胸のざわつきを知ってか知らずか、ジェランドさんは静かに言葉を続ける。
「先程のヘイデール様の態度は、あまりにも酷すぎました。婚約者であるあなたの前で、アリエット様と異様なほど親密な様子を見せつけた挙句、まんまと彼女に騙され、あなたを突き飛ばし、最後には人格を否定するような発言まで……」
「…………」
「ヘイデール様は、普段は大変温厚でいらっしゃいますが、少々癇癪持ちなところがございまして、一度頭に血が上ると、あんな感じになってしまうのです。私に言われなくても、これまでのお付き合いで、レオノーラ様も薄々は気づき始めていると思いますが……」
「ええ、時々……本当に時々だけど、ヘイデールがカッとなるところは、見たことがあるわ。でも、その怒りが私に向けられたのは初めてだったから、その、正直言って、ショックだったわ……」
瞳を閉じると、まぶたの裏に、先程のヘイデールの冷たい瞳がすぐに浮かんできて、私は慌てて目を開けた。ジェランドさんは、やや厳しい目つきで、口を開く。
「ヘイデール様は、真剣にレオノーラ様のことを好いていらっしゃいますから、普通なら、間違ってもあのような態度は取らないでしょう。あのアリエット様に、たぶらか……いえ、すいません、失言でした」
ジェランドさんは、口に出しかけた『たぶらか』という言葉を大急ぎでストップしたが、私には、彼が何を言おうとしたのか分かった。
『あのアリエット様に、たぶらかされたりしなければ』
ジェランドさんはそう言いそうになり、アリエットの実の姉である私の前で述べるには、あまりにも行き過ぎた言葉――失言だと判断して、慌てて喋るのをやめたのだろう。
……失言だなんて、とんでもない。
ジェランドさんが、アリエットの、あのどこか悪魔的な性格を察知してくれていることが、私は嬉しかった。
この人は、私の理解者になってくれるかもしれない――
図々しくもそう思った私は、気がつけば、アリエットと私のこれまでの関係について、滔々と語り始めていた。……他人の姉妹の問題など、聞いていても面白くもなんともないだろうに、ジェランドさんは、直立不動のまま、真剣に耳を傾けてくれた。
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