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第14話

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「そ、そうですか……やっぱり……」

「お医者様も首をひねっておいででしたが、アリエット様があまりにも『痛い痛い』とおっしゃるので、ヘイデール様は気が気でないご様子で、付きっ切りになっているんです。……どう見ても、お芝居なのに」

 おや、と思う。

 ジェランドさんは、アリエットが怪我をしたふりをしていることを、見抜いているらしい。私の周囲の男性たちは、だいたい皆、アリエットのお芝居にコロッと騙されてしまうので、なんとも意外だ。

 そこで、いつまでもジェランドさんに縋り付いていたことにやっと気づいた私は、頬を染めながら彼から離れ、恥ずかしさをごまかすように、問いかける。

「あの、ジェランドさんは、妹が……アリエットが嘘をついてるって、わかるんですか?」

「ええ。なかなかの名演技だとは思いますが、私は、アリエット様が転ぶ瞬間を見ておりますので。……一見派手に転んだように見えますが、しっかりと両腕で自分の体重を支えておいででしたから、あれなら怪我のしようがありません」

「そうですか……えっ、あれっ、じゃあ、さっきの、私とアリエットのやり取りを、全部見てたんですか?」

「はい。私はヘイデール様の警護係も兼任しておりますので、何かあったとき、すぐに出て行けるように、邪魔にならないところで待機して、いつも様子を伺っておりますから」

 と、言うことは、先程の私の、みっともない姿も全部見られていたということか。恥ずかしいやら惨めやらで、なんだか体が熱くなってしまう。

 ……あれ? でも、ヘイデールの警護係も兼任しているなら、彼のそばを離れてまで私のところに来るのは、まずいんじゃないだろうか? 私は、今思った通りのことを、ジェランドさんに言う。

「えっと……ジェランドさん、それじゃ、その、ヘイデールのそばを離れるのって、よくないんじゃないですか?」

 ジェランドさんは苦笑しながら答える。

「それが、アリエット様と二人で過ごすのに、私が近くにいるとお邪魔のようで、ヘイデール様に『もういいからどこか好きなところに行ってろ』と命じられてしまったのです。恥ずかしながら、私もまだまだ若輩者で、その口ぶりに少々ムッとしてしまい、『なら好きにさせてもらいます』と、出てきてしまった……というわけです、ふふっ」

 照れくさそうに笑うジェランドさんに連れられて、私も小さく笑った。

 彼の年齢は、恐らく二十歳前後だ。まだまだ血気盛んな年代であり、売り言葉に買い言葉で、腹の立つこともあるのだろう。外見は完璧なる執事だが、精神的には、ごく普通の年若い青年なのだなと思うと、なんだか、急に親近感が湧く。
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