31 / 57
第31話
しおりを挟む
驚き、固まったままの私に、ガンアイン氏は「ほほほ」と笑いかける。
「どうだい? なかなか面白い魔法だろう? こんなことができる魔法使いは、国中探してもそうはいないんだよ。ワシ、こう見えても、王立高等貴族院をトップクラスの成績で卒業した、魔法の天才だからね。若い頃は、王宮で王族に直接仕える宮廷魔導師をやってたこともある。ほほほ、ちょいとトラブルを起こして、クビにされちゃったけどね」
この人の言動を見ていれば、どんなトラブルを起こしたのかは、だいたい予想がつく。
しかしまさか、ガンアイン氏が元宮廷魔導師だったとは。
……これは、本格的に大ピンチだわ。宮廷魔導師といえば、エリート中のエリートであり、この国の魔法使いたちの中でも、最強の部類に属する存在だ。とてもではないが、今の私が太刀打ちできる相手ではない。
これからどう行動するべきか、考えあぐねていると、バッサバッサと羽ばたき続けていた書類たちが、突然燃え上がり、たったの十秒で炭化してしまった。恐らく、ガンアイン氏が発火の魔法を使ったのだろう。
ああぁ……大事な証拠が……
私は両手を伸ばし、目の前を舞い散る『証拠だったもの』の欠片を集めようとする。もう真っ黒に炭化しているので、集めたところで意味はないが、そうせずにはいられなかった。
しかし、宙をもがくようだった私の両腕が、突然静止する。
自分の意思で止まったのではない。動けないのだ。
腕だけではなく、足も動かない。
唇を、かすかにふるわせることすらかなわない。
なんとか自由に動くのは首回りだけだ。
狼狽する私に、ガンアイン氏は楽しそうに言う。
「ほほほ、金縛りの魔法だよ。これ、ワシの一番好きな魔法。体の自由を奪ってしまえば、生意気な小娘も、皆怯えて、大人しくなるからね、ほほ、ほほほ。さぁて、これからどうしようかね。色々と知られてしまった以上、もうおうちに帰してあげることはできないが、殺してしまうのもちょっとねぇ。惜しいよねぇ。ほほほほ」
ガンアイン氏は舌なめずりをしながら、私の頭の頂点からつま先までを、じっくり、ねっとりと、舐めるように見る。卑猥で陰湿な視線に耐えられなくなった私は、思わず目を背けた。
「ほほほほ、よぉし、決めたぞ。この地下室にちょいと手を加えて、監禁部屋にしよう。そしてアンジェラ、きみが、ディアルデン家がおこなってきた不正のことを完全に忘れ、余計なことを喋ったりする気力がなくなるまで、心も体も、徹底的に調教してあげようかね。ほほっ」
「どうだい? なかなか面白い魔法だろう? こんなことができる魔法使いは、国中探してもそうはいないんだよ。ワシ、こう見えても、王立高等貴族院をトップクラスの成績で卒業した、魔法の天才だからね。若い頃は、王宮で王族に直接仕える宮廷魔導師をやってたこともある。ほほほ、ちょいとトラブルを起こして、クビにされちゃったけどね」
この人の言動を見ていれば、どんなトラブルを起こしたのかは、だいたい予想がつく。
しかしまさか、ガンアイン氏が元宮廷魔導師だったとは。
……これは、本格的に大ピンチだわ。宮廷魔導師といえば、エリート中のエリートであり、この国の魔法使いたちの中でも、最強の部類に属する存在だ。とてもではないが、今の私が太刀打ちできる相手ではない。
これからどう行動するべきか、考えあぐねていると、バッサバッサと羽ばたき続けていた書類たちが、突然燃え上がり、たったの十秒で炭化してしまった。恐らく、ガンアイン氏が発火の魔法を使ったのだろう。
ああぁ……大事な証拠が……
私は両手を伸ばし、目の前を舞い散る『証拠だったもの』の欠片を集めようとする。もう真っ黒に炭化しているので、集めたところで意味はないが、そうせずにはいられなかった。
しかし、宙をもがくようだった私の両腕が、突然静止する。
自分の意思で止まったのではない。動けないのだ。
腕だけではなく、足も動かない。
唇を、かすかにふるわせることすらかなわない。
なんとか自由に動くのは首回りだけだ。
狼狽する私に、ガンアイン氏は楽しそうに言う。
「ほほほ、金縛りの魔法だよ。これ、ワシの一番好きな魔法。体の自由を奪ってしまえば、生意気な小娘も、皆怯えて、大人しくなるからね、ほほ、ほほほ。さぁて、これからどうしようかね。色々と知られてしまった以上、もうおうちに帰してあげることはできないが、殺してしまうのもちょっとねぇ。惜しいよねぇ。ほほほほ」
ガンアイン氏は舌なめずりをしながら、私の頭の頂点からつま先までを、じっくり、ねっとりと、舐めるように見る。卑猥で陰湿な視線に耐えられなくなった私は、思わず目を背けた。
「ほほほほ、よぉし、決めたぞ。この地下室にちょいと手を加えて、監禁部屋にしよう。そしてアンジェラ、きみが、ディアルデン家がおこなってきた不正のことを完全に忘れ、余計なことを喋ったりする気力がなくなるまで、心も体も、徹底的に調教してあげようかね。ほほっ」
3
お気に入りに追加
1,280
あなたにおすすめの小説
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!
杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。
しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。
対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年?
でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか?
え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!!
恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。
本編11話+番外編。
※「小説家になろう」でも掲載しています。
婚約破棄を要求されましたが、俺に婚約者はいませんよ?
紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
長い外国留学から帰ってきたラオウは、突然婚約破棄を要求されました。
はい?俺に婚約者はいませんけど?
そんな彼が幸せになるまでのお話。
(完結)そんな理由で婚約破棄? 追放された侯爵令嬢は麗しの腹黒皇太子に溺愛される
青空一夏
恋愛
※路線を変更します。「ざまぁ」を適宜いれることにしました。あまり残酷すぎない全年齢向きの「ざまぁ」とR15程度のきつめの「ざまぁ」を追加します。イラストを投稿するためにエッセイを出す予定なのであわせてお読みください。
私はステファニー・ジュベール。ルコント王国のジュベール侯爵家の一人娘よ。レオナード王太子とは10歳の頃に婚約したの。そこからの王太子妃教育はかなりきつかったけれど、優しいレオナード王太子殿下の為に一生懸命努力を重ねたわ。
レオナード王太子殿下はブロンドで青い瞳に、とても整ったお顔立ちの方だった。私達は王立貴族学園に一緒に通い、お互いの気持ちは通じ合っていると信じていたのよ。ちなみにこの国では、13歳から16歳まで学園に通うことになっているわ。
初めは楽しかった学園生活。けれど最終学年になった頃よ。私のお父様が投資に失敗し、ジュベール侯爵家に大きな負債をもたらしたの。おまけに私の美しかったブロンドの髪がだんだんと色あせ・・・・・・明るく澄んだ青い瞳の色も次第に変わり始めると、学園内でレオナード王太子殿下は公然と私に心ない言葉を投げつけるようになったわ。
「ねぇ、今のステファニーの立場をわかっている? 今の君では到底王太子妃の地位に相応しくないと思わないかな? いっそ辞退してくれれば良いのにねぇ」
あれほど優しかったレオナード王太子殿下は、手のひらを返したようにそうおっしゃるようになったのよ。
私はそんな酷い言葉を投げつけられても悲しいだけで、レオナード王太子殿下のことを嫌いにはなれない。だって、以前はとても優しかったから、あの頃の彼を信じていたいのよ。
でも、そんな私の思いとは裏腹に、卒業を迎えた半年ほど前から、私は学園でバーバラ・ゲルレーリヒ男爵令嬢を虐めていると言いがかりをつけられるようになり・・・・・・
これは私が大好きだったレオナード王太子に裏切られ悲しい思いをしたけれど、それ以上に幸せになる物語よ。
※全く史実には基づかない異世界恋愛ファンタジーです。現代的な表現や機器などでてくる場合があります。
※表紙は作者作成AIイラストです。
※本文は全年齢向きです。「ざまぁ」の一部はR15です。
※冷たくされてもレオナード王太子殿下を嫌いになれない、つい期待してしまう乙女な性格の主人公です。(タグの削除や追加の可能性あり)
※カクヨム、ベリーズカフェにも投稿します。←こちらざまぁが穏やかです。
※ペンネーム変えました。青空(サチマル)です。気がつかなかったという方が多くいらっしゃったので、しばらく注意書きを追記しておきます。
身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「おい、アドレーラ。死んだか?」
私の婚約者であるルーパート様は、私を井戸の底へと突き落としてから、そう問いかけてきました。……ルーパート様は、長い間、私を虐待していた事実が明るみになるのを恐れ、私を殺し、すべてを隠ぺいしようとしたのです。
井戸に落ちたショックで、私は正気を失い、実家に戻ることになりました。心も体も元には戻らず、ただ、涙を流し続ける悲しい日々。そんなある日のこと、私の幼馴染であるランディスが、私の体に残っていた『虐待の痕跡』に気がつき、ルーパート様を厳しく問い詰めました。
ルーパート様は知らぬ存ぜぬを貫くだけでしたが、ランディスは虐待があったという確信を持ち、決定的な証拠をつかむため、特殊な方法を使う決意をしたのです。
そして、すべてが白日の下にさらされた時。
ルーパート様は、とてつもなく恐ろしい目にあうことになるのでした……
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる