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第8話
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「そっか。ふふ、ありがとうチェスタス。やっぱり頼りになるわね」
……私は今、とんでもないことを聞いてしまった。
やっぱり、チェスタス自身も、エミリーナの不正入学にかかわっていたのか。
いや、それよりも衝撃的だったのが、チェスタスの言った『先生たちとは、もう話をつけてある』という言葉だ。……まさか、先生たちまでもが、こんなあからさまな不正を認めているなんて。
不意に、メイナード先生の顔が脳裏に浮かぶ。
……先生も、不正を容認する教師の一人なのだろうか?
いや、待って待って。
そんなことはあり得ない。
メイナード先生が不正を容認していたとしたら、昨日みたいに、エミリーナの転入に疑う要素があるなんて話を、わざわざ私にしたりはしないはずだ。たぶんだけど、メイナード先生は半年前に来たばかりだから、悪い先生たちに、取り込まれていないのね。
メイナード先生だけは、信頼できる。
だから、今聞いた話を、すぐ先生に伝えないと……!
そう思った瞬間、ずっと使っていた『音声盗聴魔術』の波動が、少し乱れてしまった。
しまった!
さっき、カッとなった時ですら、波動を乱したりしなかったのに。
魔力の波動を乱さないことは、『音声盗聴魔術』を使う際の、最注意事項である。なぜなら、波動が乱れると、その揺らぎは盗聴対象者の元にも届き、聞き耳を立てていたことがバレてしまう可能性が大なのだ。
私は大慌てで物陰に隠れ、チェスタスとエミリーナの様子をそっと伺う。
鈍感なチェスタスは、まったく気がついていないようで、今まで通り、のほほんとした表情で何やら喋っている。だが、エミリーナの方は、チェスタスの話などまるで耳に入っていない様子で、背後を振り返ると、もの凄い目で周囲を探っている。
エミリーナに、盗み聞きがバレた……?
確信はないが、エミリーナの反応を見ていると、その可能性は高い。
どうする。
どうする。
どうする。
とりあえず、今はここに身を潜めて、二人が行ってしまうのを待とう。
二人がいなくなってから、これからどうするか、ゆっくり考えればいいわ。
私はそう思い、俯くと、深々とため息を吐く。
「……そんなところで、何してるの?」
突然声をかけられて、驚きで心臓が止まりそうになる。
俯いていた顔を上げると、そこにはエミリーナがいた。
エミリーナは、柔らかそうな唇を朗らかに歪めて笑みを作り、静かにこちらを見ている。だがその目は、少しも笑っていない。まるで刺すようなその視線に気圧され、私は思わず目を背けた。
……私は今、とんでもないことを聞いてしまった。
やっぱり、チェスタス自身も、エミリーナの不正入学にかかわっていたのか。
いや、それよりも衝撃的だったのが、チェスタスの言った『先生たちとは、もう話をつけてある』という言葉だ。……まさか、先生たちまでもが、こんなあからさまな不正を認めているなんて。
不意に、メイナード先生の顔が脳裏に浮かぶ。
……先生も、不正を容認する教師の一人なのだろうか?
いや、待って待って。
そんなことはあり得ない。
メイナード先生が不正を容認していたとしたら、昨日みたいに、エミリーナの転入に疑う要素があるなんて話を、わざわざ私にしたりはしないはずだ。たぶんだけど、メイナード先生は半年前に来たばかりだから、悪い先生たちに、取り込まれていないのね。
メイナード先生だけは、信頼できる。
だから、今聞いた話を、すぐ先生に伝えないと……!
そう思った瞬間、ずっと使っていた『音声盗聴魔術』の波動が、少し乱れてしまった。
しまった!
さっき、カッとなった時ですら、波動を乱したりしなかったのに。
魔力の波動を乱さないことは、『音声盗聴魔術』を使う際の、最注意事項である。なぜなら、波動が乱れると、その揺らぎは盗聴対象者の元にも届き、聞き耳を立てていたことがバレてしまう可能性が大なのだ。
私は大慌てで物陰に隠れ、チェスタスとエミリーナの様子をそっと伺う。
鈍感なチェスタスは、まったく気がついていないようで、今まで通り、のほほんとした表情で何やら喋っている。だが、エミリーナの方は、チェスタスの話などまるで耳に入っていない様子で、背後を振り返ると、もの凄い目で周囲を探っている。
エミリーナに、盗み聞きがバレた……?
確信はないが、エミリーナの反応を見ていると、その可能性は高い。
どうする。
どうする。
どうする。
とりあえず、今はここに身を潜めて、二人が行ってしまうのを待とう。
二人がいなくなってから、これからどうするか、ゆっくり考えればいいわ。
私はそう思い、俯くと、深々とため息を吐く。
「……そんなところで、何してるの?」
突然声をかけられて、驚きで心臓が止まりそうになる。
俯いていた顔を上げると、そこにはエミリーナがいた。
エミリーナは、柔らかそうな唇を朗らかに歪めて笑みを作り、静かにこちらを見ている。だがその目は、少しも笑っていない。まるで刺すようなその視線に気圧され、私は思わず目を背けた。
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