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第1話

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 上級貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される学校――王立高等貴族院。

 私は、婚約者であるチェスタスと共にそこに通い、何不自由ない、楽しい学園生活を謳歌していた。

 しかし、ある日突然転入してきた彼の幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変した。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。

 チェスタスは、不満げな私に困ったような笑顔を向けて、こう言った。

「アンジェラ。そんなに拗ねないでくれ。僕は、まだ王立高等貴族院の生活に慣れていないエミリーナに、なるべく優しくしてやりたいんだよ。思いやりのあるきみなら、分かってくれるだろう?」

 正直、『そんなに拗ねないでくれ』という物言いは気に入らなかったが、『思いやりのあるきみなら、分かってくれるだろう?』と言われては、渋々ながらも頷くしかない。

 私自身、思いやりのある人でありたいと常々思っているし、王立高等貴族院では、生徒一人一人の素行が、教師たちによって厳しくチェックされている。……婚約者に構ってもらえないからといって憮然とするような子供じみた態度では、私の評価は下がってしまうだろう。

 どうせ、チェスタスがエミリーナにやたらと世話を焼くのも、彼女がここでの暮らしに慣れるまでの、数日間程度の話に違いない。まあ、それくらい我慢するわ。

 そう思い、私は内心の寂しさをひた隠し、なるべく平静を装って学校生活を続けた。

 ……しかし、一種間経っても、二週間経っても、エミリーナに対するチェスタスの特別扱いは変わらない。いや、むしろ、ますます酷くなっているようにすら思える。

 最近は、何を話しかけても……

『ごめん、あっちでエミリーナが呼んでるから、後にしてくれ』
『ごめん、昼食はエミリーナと食べるから、また今度ね』
『ごめん、放課後はエミリーナと約束があるから、駄目なんだ』

 と、言うような感じだ。

 ……『放課後はエミリーナと約束があるから』って、何よそれ。

 エミリーナは、王立高等貴族院の生活に慣れていないから、優しくしてあげてるんでしょ? 放課後は、関係ないじゃない。

 何より、エミリーナを見つめるチェスタスの瞳。

 あれは、ただの親切心とか、友情とか、そう言うたぐいのものではなく、明らかな思慕の情が含まれている気がする。……もしかしてチェスタスの愛情は、私からエミリーナに移ってしまったのではないだろうか?
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