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第19話(ブライアン視点)【完結】
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あれから、どれだけの時が流れたことだろう。
ワシは、一人だ。いつも、一人だ。ずっと、一人だ。
ワシは今でも、『本当の愛』を探し続けている。
渇く。
渇く。
心が渇く。
決して満たされることのない、渇き。
もう遥か昔。
ケイティと一緒だったときは、満たされていた、渇き。
若かりしあの時。
二人、一緒にいるだけで、幸福で、幸福で、満たされていた。
ああ。
満たされない。
満たされない。
もう二度と、満たされることはない。
ワシはずっと、霧の中をさまよっている。
隣には、誰もいない。
金だけは、使いきれないほど、ある。
だが、隣には、誰もいない。
ワシはこのまま、一人で朽ち果てるのだろう。
……ワシはかつて、婚約者であったローラリアに愚かな振る舞いをした。
それも、二度も。
一度目は、身勝手に婚約を破棄したこと。二度目は、自分の立場が悪くなってから、彼女の気持ちも考えず、婚約を結びなおそうとしたことだ。
しかしローラリアは、ワシを許した。
だから、家族は路頭に迷わずに済んだし、ワシ自身も、商人として成功することができた。
ワシは知った。
人が人を許すという、慈悲のすばらしさ、そして、ありがたさを。
しかし……しかしワシは……
ケイティを、許すことができなかった。
自分は許されたというのに、どうしても、ケイティを許せなかった。
彼女を疑いながらも、心の深いところでは、ケイティが、本心から俺の身を案じ、駆けつけてくれたとわかっていたのに…
だが、ワシは……ワシは……もう一度、彼女を信じるのが怖かった。恐怖は怒りとなり、ワシは、必要以上にケイティを拒絶した。
あれは、本当に、痛恨の間違いだった。
愚かなことばかりしてきた人生だが、あれはまさに、究極の愚行だった。
ケイティが離れていったことで人間不信になったとはいえ、せめて一度は、彼女を許し、受け入れるべきだったのだ。……そうすれば、時間はかかったかもしれないが、ケイティには邪な企てなどなく、心からワシを愛してくれているのだと理解し、ワシもまた、ケイティを愛することができただろうに……
そう。
これが、ワシの犯した、最大の罪。
『自分は許された』のに、ワシは、ワシは、ケイティを、『許さなかった』
それだけではなく、ワシは手切れ金を放り投げ、ケイティの心を、ズタズタに傷つけた。それが間違った選択だと、すぐに気がついたのに、彼女を追うことも、謝ることも、しなかった……間違いを認めるのが、怖かったから……
自業自得だ。
今の孤独は、すべて、自分の行動が招いた結果なのだ。
ケイティがワシに対して向けてくれた、『確かにそこにある愛情』から目を背け、幻想にすぎない『本当の愛』を探すことに逃げたワシには、お似合いの末路だ。
幸せになるチャンスは、あった。
だがワシは、そのチャンスを、掴もうとすら、しなかったのだ……
ケイティ……きみの愛情を踏みにじって、すまなかった……
終わり
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『お姉様に婚約者を奪われましたが、私は彼と結婚したくなかったので、とても助かりました』を投稿しております。
主人公は、姉によって婚約者を奪われるのですが、その婚約者が、実は非常にタチの悪い人物で、奪った姉の方が、大変な人生を送ることになるお話です。よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
……今回は、寂しいラストになってしまったので、『ブライアンがかわいそう!』と思われた方のために、蛇足かとも思ったのですが、ちょっとした希望というか、解説を用意しました。
↓
ケイティを傷つけたことから目を背け、幻のような『本当の愛』を探し続けた結果、孤独に老いてしまったブライアン。
……しかし最終回の独白では、あれほどやかましく喋っていた、彼の心の中の『人間不信』が、一言も喋っていないんですね。そして、ブライアン自身も、自らの罪を認め、ケイティを許さなかったことを間違いとして悔い、最後には、『本当の愛』など幻想にすぎないと理解して、ケイティに謝罪している。
このとき彼は、やっと、長い間苦しんできた二つの呪い――『人間不信』と、『本当の愛』を求める心から、解放されたんですね。
年をとっても、彼の人生には、まだ残りがあります。
呪いから解放されたブライアンは、その残った人生の中で、ささやかな幸せと、本当でも嘘でもない、誰かからの愛情を受け取ることができるかもしれません。
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あれから、どれだけの時が流れたことだろう。
ワシは、一人だ。いつも、一人だ。ずっと、一人だ。
ワシは今でも、『本当の愛』を探し続けている。
渇く。
渇く。
心が渇く。
決して満たされることのない、渇き。
もう遥か昔。
ケイティと一緒だったときは、満たされていた、渇き。
若かりしあの時。
二人、一緒にいるだけで、幸福で、幸福で、満たされていた。
ああ。
満たされない。
満たされない。
もう二度と、満たされることはない。
ワシはずっと、霧の中をさまよっている。
隣には、誰もいない。
金だけは、使いきれないほど、ある。
だが、隣には、誰もいない。
ワシはこのまま、一人で朽ち果てるのだろう。
……ワシはかつて、婚約者であったローラリアに愚かな振る舞いをした。
それも、二度も。
一度目は、身勝手に婚約を破棄したこと。二度目は、自分の立場が悪くなってから、彼女の気持ちも考えず、婚約を結びなおそうとしたことだ。
しかしローラリアは、ワシを許した。
だから、家族は路頭に迷わずに済んだし、ワシ自身も、商人として成功することができた。
ワシは知った。
人が人を許すという、慈悲のすばらしさ、そして、ありがたさを。
しかし……しかしワシは……
ケイティを、許すことができなかった。
自分は許されたというのに、どうしても、ケイティを許せなかった。
彼女を疑いながらも、心の深いところでは、ケイティが、本心から俺の身を案じ、駆けつけてくれたとわかっていたのに…
だが、ワシは……ワシは……もう一度、彼女を信じるのが怖かった。恐怖は怒りとなり、ワシは、必要以上にケイティを拒絶した。
あれは、本当に、痛恨の間違いだった。
愚かなことばかりしてきた人生だが、あれはまさに、究極の愚行だった。
ケイティが離れていったことで人間不信になったとはいえ、せめて一度は、彼女を許し、受け入れるべきだったのだ。……そうすれば、時間はかかったかもしれないが、ケイティには邪な企てなどなく、心からワシを愛してくれているのだと理解し、ワシもまた、ケイティを愛することができただろうに……
そう。
これが、ワシの犯した、最大の罪。
『自分は許された』のに、ワシは、ワシは、ケイティを、『許さなかった』
それだけではなく、ワシは手切れ金を放り投げ、ケイティの心を、ズタズタに傷つけた。それが間違った選択だと、すぐに気がついたのに、彼女を追うことも、謝ることも、しなかった……間違いを認めるのが、怖かったから……
自業自得だ。
今の孤独は、すべて、自分の行動が招いた結果なのだ。
ケイティがワシに対して向けてくれた、『確かにそこにある愛情』から目を背け、幻想にすぎない『本当の愛』を探すことに逃げたワシには、お似合いの末路だ。
幸せになるチャンスは、あった。
だがワシは、そのチャンスを、掴もうとすら、しなかったのだ……
ケイティ……きみの愛情を踏みにじって、すまなかった……
終わり
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『お姉様に婚約者を奪われましたが、私は彼と結婚したくなかったので、とても助かりました』を投稿しております。
主人公は、姉によって婚約者を奪われるのですが、その婚約者が、実は非常にタチの悪い人物で、奪った姉の方が、大変な人生を送ることになるお話です。よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
……今回は、寂しいラストになってしまったので、『ブライアンがかわいそう!』と思われた方のために、蛇足かとも思ったのですが、ちょっとした希望というか、解説を用意しました。
↓
ケイティを傷つけたことから目を背け、幻のような『本当の愛』を探し続けた結果、孤独に老いてしまったブライアン。
……しかし最終回の独白では、あれほどやかましく喋っていた、彼の心の中の『人間不信』が、一言も喋っていないんですね。そして、ブライアン自身も、自らの罪を認め、ケイティを許さなかったことを間違いとして悔い、最後には、『本当の愛』など幻想にすぎないと理解して、ケイティに謝罪している。
このとき彼は、やっと、長い間苦しんできた二つの呪い――『人間不信』と、『本当の愛』を求める心から、解放されたんですね。
年をとっても、彼の人生には、まだ残りがあります。
呪いから解放されたブライアンは、その残った人生の中で、ささやかな幸せと、本当でも嘘でもない、誰かからの愛情を受け取ることができるかもしれません。
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一気に⋯ではありませんが、ちょっと間を置いてからブライアン視点を読みました。
本編はもちろんおいらのなかでは『めでたし、めでたし(* ˘꒳˘ )*ᴗ_ᴗ)* ˘꒳˘ )*ᴗ_ᴗ)⁾⁾』ですが、ブライアン視点もちょっと哀しいけどある意味『めでたし、めでたし』だったと思って『可哀想』とブライアンが自分を取り戻したことへの『良かったね』の涙が滲んでしまいました(* ̄꒳ ̄)ヨキデス
ケイティは本当にブライアンの為を思って離れたのか?それとも羽振りが良くなって信頼もある程度取り戻して『今なら傍にいても安泰だ』という打算で戻ってきたのか?色々疑わしさもありますがおいらは『ブライアンの為に離れた』事を信じたいしケイティも『ブライアンからの信用も愛情も完全に失ったのは当然のことだから』と自分の幸せを諦めなんなら修道院にでも入って残りの人生をブライアンの幸せの為に祈って暮らしたとかだったら、それこそg5『本当の愛』だなぁと妄想しています(꒪ㅂ꒪)
妄想はもちろん蛇足になってしまうので完全に自分の中でだけさらなる妄想⋯、いつか生まれ変わり、ケイティと今度こそ何の障害も憂いもなく幸せになる、ローラリアとも兄妹?姉弟?他人ではなく信頼できる愛すべき者として仲良く出来る、そんな人生を神様にプレゼントしてもらえるといいねって思います(* ̄꒳ ̄)
自分の中で育ってしまい、ちゃんと消化できた『人間不信』は商売や経営の才能として出てきたら良いと思うょ(๑꒪ㅿ꒪๑)
お気に入り登録させてもらいました(^o^)陰ながら応援してます(^^)
ありがとうございます!
お気に入り登録嬉しいです!
応援の気持ちに応えられるようにこれからも頑張ります!
うーん。まぁ、ブライアンがやったことは最低だけど、結婚恐怖症になる気持ちはわかるな。むしろ、苦しいとき助けてくれず、余裕が出たからすり寄ってきたようにしかみえないし。自分もケイティは信用できない。
お金なんかいらないと言っていた元恋人の方が信用できるかな。
結局、苦しいとき助けてくれたのは元婚約者のみ。読み返してみると、彼女に対しては悪い気持ちが書かれていないんだよなぁ。
苦しいときに支えてくれた人が一人でもいれば違ったのかもね。
感想ありがとうございます!
>苦しいときに支えてくれた人が一人でもいれば違ったのかもね。
ケイティが離れていかなければ、ブライアンの家は没落し、また別の苦しみを味わったことでしょうが、そうなったとしても、もしかしたら二人にとっては、一緒にいた方が幸せだったのかもしれません。そういう意味でも、ケイティの行動は罪深いものだったかもしれませんね。