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第15話(ブライアン視点)

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 あの、ケイティだ。

 かつて、身を焦がさんばかりに恋い焦がれた人。
 彼女となら、『本当の愛』を見つけられると信じた人
 そして、俺を捨てて去って行った、憎い人。

 僕は椅子から立ち上がり、愛憎の混ざった目で、ケイティを見た。

 そう、愛憎――
『愛』と『憎』だ。

 みっともなくも、俺はまだ、ケイティを『愛』している。

 しかし、それと同じくらい、彼女を『憎』く思っている。

 困ったような微笑を浮かべているケイティに、俺は叫んだ。

「ケイティ! 今さら、何をしに来た!」

 あらん限りの怒気を含めたつもりだったが、どうしても、喜びが混ざってしまう。俺は、喜んでいる。もう二度と会えないだろうと思っていたケイティが、再び俺の前に現れたことを、どうしようもないほど、喜んでいるのだ。

 ケイティは、俺の怒声に若干気圧されながらも、答える。

「久しぶりね、ブライアン。元気そうで、安心したわ」

「ふん、元気そうだと? きみに見捨てられてから、俺がどれだけ苦労したかも知らないくせに、よくそんなことが言えるな」

 ケイティは、首を左右に振る。

「知ってるわ。あなたが、弟さんに次期当主の座を譲り、家を出たことも。一生懸命頑張って、商人として成功したことも。そして、誰も信頼できず、苦しんでいることも……」

「な、なんだと?」

「私は、ずっとあなたの動向を見守っていたの」

「何故だ? 自分の捨てた男が、落ちぶれていくのを見て、笑ってやろうとでも思っていたのか?」

「……違うわ。ブライアン、落ち着いて聞いてね。私、あなたを見捨てたわけじゃないのよ。あのまま私といたら、あなたの家が、完全に再起不能になると思って、姿を消していたの」

「ど、どういう意味だ? なんで、きみが一緒にいたら、俺の家が再起不能になるんだよ」

「だって、そうでしょう? 婚約者を裏切ったあなたと私が結婚し、幸せになったら、他の貴族たちは、たとえローラリアさんに『許してあげてほしい』と言われても、きっと、あなたを許さなかったと思うわ」

 ……それは、そうかもしれない。

 貴族たちが、俺と、俺の家を許したのは、ローラリアの嘆願文も重要だが、俺自身が、『婚約者を裏切ってまで入れ込んだ女に見捨てられた惨めで哀れな男』だったから、というのもある。

 ケイティの言う通り、俺がケイティと添い遂げていたら、貴族たちの反発感情は収まらず、今頃、俺の家は完全に没落し、父も、母も、弟も、路頭に迷っていたかもしれない。俺自身の商売も、上手くいかなかったことだろう。
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